トランプ元大統領が銃撃されたからと言うわけではない。民主党と共和党の対立が先鋭化する中で、「米国は一体どこに向かっているのか」、マスク氏の本社移転の記事を読みながら改めてこの国の“分断”の事態を垣間見た。きっかけはマスク氏がX(旧ツイッター)とスペースXの本社を、カリフォルニア州からテキサス州に移転すると発表したことだ。ブルームバーグ(B B)によるとマスク氏は、「カリフォルニア州の新法成立で『我慢の限界』に達したことが移転の決め手になった」と説明しているとのこと。民主党の基盤とも言うべきカリフォルニア州ではこれまで、「生徒の性自認変更を教師が保護者に通知するよう義務付けていた」。新たな法律でこの義務が撤廃された。これがマスク氏の心に火をつけたようだ。もう「我慢の限界」だと言うのだ。B Bの記事を読むまで知らなかったが、マスク氏には個人的な「家庭の事情」があるようだ。
B Bによると同氏の子どもの一人は2022年、18歳になったのを機に氏名変更の手続きをとった。裁判所に提出された文書では「自分の性自認と、実父とはもはや同居しておらず、今後はいかなる形であれ一切関わりを持ちたくないという事実」を氏名変更の理由に挙げている。新法成立を受けてマスク氏はカルフォルニア州ならびにニューサム知事を「親の権利を大きく破壊する」と糾弾、子どもたちに「生涯残るダメージ」を与えるリスクがあると非難している。マスク氏はこれまで必ずしも共和党と一体化していたわけではない。今回の大統領選挙でも一時はフロリダ州知事のデサンティス氏を支持していた。そのマスク氏がここにきてトランプ氏の共和党に急接近している。つい最近マスク氏はトランプ氏を支えるスーパーPAC(政治活動委員会)に、毎月4500万ドル(約70億円)を寄付すると表明した。
民主党と共和党の間に横たわる溝は、バイデン氏とトランプ氏の個人的な感情にとどまらない。財政運営から国際戦略、ウクライナに対する支援のあり方、カーボンニュウートラルに取り組む姿勢など、極端なことを言えば何から何まで違っている。中でも圧倒的に違うのはL G B T Q、B L M(ブラック・ライブズ・マター)、移民政策、妊娠中絶の是非だろう。その1つであるトランスジェンダーに絡んでマスク氏は本社移転を決断した。ニューサム知事はこれに対して「(マスク氏は)トランプ氏にひざまずいた」と非難している。問題はマスク氏の個人的な感情ではない。対立が先鋭化し、どんどんひどくなっている事実だ。銃撃されてもなお銃規制を口にしないトランプ氏ならびに共和党。両党の戦いはこの先どこに行き着くのだろうか。大統領選が一つのターニングポイントになるのだろうか。分裂する米国の実態が解消する前に、分裂の原因そのものが世界に広がりそうな気がする。
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