日本の観光立国化を阻むのはオーバーツーリズムだけではないようだ。ロイターが今朝配信した記事によると、日本独自の労働慣行が観光立国の大きな障害になりそうだという。記事のタイトルは「日本の観光立国化阻むパイロット不足、即戦力の外国人には給与の壁」。政府は2030年に6000万人の外国人観光客の誘致を目指している。そのためにはパイロットの数を1割以上増やす必要があるが、政府の計画を無視するかのように国内航空会社のパイロット不足が深刻化しているというのだ。パイロットは現状で約7100人いる。2月に国土交通省が設置した有識者委員会によると、目標達成には約8000人が必要だとの試算をまとめている。この実現に向けて即戦力となる外国人パイロットの受け入れなどの検討も始まっているが、そこには航空会社特有の労働慣行が立ちはだかっているというのだ。

ロイターによると外国人パイロットの採用にはいくつかの障害がある。一つは給料。業界関係者によると、日本航空(JAL)とANAホールディングスの機長の平均年収は約2500万円。これが海外になると例えばデルタ航空で、12年の飛行経験のあるパイロットが約45万3000ドル(約6500万円)、アメリカン航空だと約48万ドル(約6900万円)。デフレが続いた30年の間に日本人の給与はかなり低くなっている。アメリカ、ドイツ、フランスには遠く及ばず、2015年にはお隣の韓国にも抜かれている。先進7カ国の中では今やイタリアと最下位を争う体たらく。日本人の給料はとにかく安いのである。さらに日本語の壁がある。「日本語を話さないパイロットを受け入れるために社内業務を一から見直さなければならない」、記事の中で経営コンサルの阿部暢仁氏は指摘している。

さらに阿部氏は強調する。「日本の多くの職業がそうであるように、パイロットは終身雇用の枠組みで捉えられることが多い。JALやANAのパイロットの多くは新卒採用されたか、航空大学校の卒業生だ」と。航空会社にとってパイロットはエリート。その採用には古くからの慣行がいまだに厳然と残っている。香港のフラッグ・キャリアであるキャセイパシフィック航空には、70カ国の国籍を持つパイロットが在籍しているという。こうした現状をどう思うか、ロイターが日本航空乗員組合と全日空乗員組合にコメントを求めたが、返事は返ってこないという。現状を無視して政府は勝手に観光立国の目標を数値化し、労働組合は危機的状況についての問い合わせに答えない。ガラパゴスそのものだ。こうした記事を読むと日本再生は「日暮れてなお道遠し」の感が否めない。