ガストロノミーツーリズムという言葉をはじめて聞いた。昨夜NHKで放送されたクローズアップ現代が取り上げている。インバウンドに支えられている日本経済。半面、オーバーツーリズムが次々にインバウンドの悪い面を暴き出している。そんな中でガストロノミーは、過疎地に散財する日本固有の食文化を提供することで、世界中の富裕層を惹きつけているようだ。ガストロノミー、ひと言で言えばその地域に伝わる固有の文化や伝統に絡めて食事を楽しむことを指している。中国でインフルエンサーとして活動するジョスリン・チェンさん、日本の食を求めて100回以上来日しているという。そのチェンさんが向かったのは富山県南砺市、人口400人の利賀村だ。日本に数多ある過疎地のひとつ。この村は豊かな自然に加え、演劇の聖地として知られる村でもある。
その地にフランスの三つ星レストランで修行した谷口英司さんが、独立して開業した。チェンさんが目指したレストランだ。名物は地元で獲れた熊肉や雛鳥。それに谷口さん自ら採ってきた山菜をふんだんに使った料理だ。チェンさんは一人前3万円のコース料理を味わいながら「地元の人と同じ食材を食べる、これが醍醐味」と話す。これこそがガストロノミーの真髄か。食を通してそこに暮らす人々を知り、地域特有の文化や習慣、歴史を知る。世界中の富裕者を惹きつける新しい旅行のあり方だ。静岡県焼津市で老舗の鮮魚店を営む前田尚樹さん。漁港に水揚げされた鮮魚を買い付け、港の片隅ですぐに“神経締め”を施す。これは水産業界に伝わる伝統的な鮮度を維持する方法だ。釣った魚を即死させることや、血抜きをするのと同じで、魚の鮮度を保つ効率的で合理的な方法だ。
前田さんの店には世界中から注文が殺到している。そうだと思う。多くの日本人は忘れているが、日本列島、北から南まで、全国各地に世界に通用する伝統的な技術や技が散らばっている。クロ現を見ながら地方に隠れている無限の可能性に思いが膨らんだ。谷口さんの登場で有機農業を地元で営む河上めぐみさんの売り上げは、9年間で30倍に膨らんだという。レストランが流行れば養鶏場も、メニューを印刷する和紙も陶器も、あるいは地元の城端絹(じょうはなきぬ)を使った暖簾も売れる。派生商品というべきか、お客さんのアイデアで作った絹製のスチームブロがブームを呼んでいるという。これこそ経済の好循環だ。ガストロノミーツーリズム、これは地方創生の起爆剤になるかもしれない。いまはまだ細々と灯る小さな芽吹きに過ぎないが、日本の未来を先取りしている気がする。いいものは高くても世界に通用する時代なのだ。
- 投稿タグ
- 経済の行方