ウクライナ戦争が危機的様相を強めている。ロシアが北朝鮮兵士を戦場に投入したことを契機に、米英がこれまで自重していた長距離兵器のロシア領攻撃を容認。対抗するようにプーチンが核ドクトリンを見直し、いつでも核攻撃が可能になったと西側を恫喝している。そんな中でウクライナは米国提供の「ATACMS」と、英国提供の「ストームシャドー」をロシア領に打ち込んだ。これを受けてロシアは新型の中距離弾道ミサイル(I C B M)を発射。プーチンは「非核保有国が核保有国の支援を得てロシアやその同盟国に攻撃を仕掛ける場合、ロシアは共同攻撃だと見なす」と相変わらず手前勝手な論理を振り撒いている。その一方でドイツのシュルツ首相がプーチンと電話会談、戦闘停止を要請するなど戦争終結に向けた動きも表面化している。この先何が起こるのか、核戦争はあるのか。ウクライナ戦争は拡大か終結か、剣ヶ峰に差し掛かったようだ。

背景にあるのはトランプ氏の圧勝だろう。ロシアの国営通信社・RIAノーボスチによるとロシアは、「バイデン政権がウクライナでの戦争を確実に継続させるため今後2カ月にあらゆる手を尽くすだろう」(ブルームバーグ)と認識しているようだ。トランプ就任前にできるだけ有利な状況を作り出そうと、米ロ双方が意図的に戦線拡大に動いているというわけだ。どっちもどっちだが、気になるのは核をめぐるプーチンの恫喝だ。核戦争は起こるのか。注目すべきはロシアのラブロフ外相の発言だ。同氏はG20首脳会議で次のような発言をしている。「核戦争が起こらないよう、あらゆる手を尽くすことをわれわれは強く支持している」(同)、「核兵器は何よりもまず、核戦争を防ぐための兵器だ」(同)。とりわけ注目されるのは後の発言だ。核抑止力は「使わない」「使えない」ことが暗黙の了解になっている。プーチンと一心同体と思ってラブロフ氏だが、意外に反プーチンかもしれない。

これは核使用で西側を恫喝するプーチンへの批判でもある。ロシアにも核抑止力の真っ当な解釈を支持する人たちが一杯いるだろう。ウクライナが西側提供の長距離兵器で攻撃すればするほど、ロシア内部でプーチン批判派が増える可能性がる。プーチンが仕掛けた「特別軍事作戦」には最初から正義も大義もない。その作戦で核兵器を使えば、その瞬間にプーチンもロシアも終わる。プーチンもわかっている。だから核兵器は使用できない。米国も核ドクトリンの見直しを無視している。当然だろう。プーチン1人があがいている。バイデン大統領は第3次世界大戦勃発を危惧して長距離兵器の使用を自重してきた。果たしてこれは正しい選択だったのか。トランプ圧勝を導火線としたウクライナ戦争の目先的な激化。終戦に向け“ぶんどり合戦”のようなバイデン大統領とプーチンの駆け引き。なんの罪もない庶民は、無能な指導者の争いで多大な犠牲を強いられている。