By Jay Pelosky

コラム:変わる世界経済、米国一強から「3極化」へ

[9日 ロイター] – 2024年は米国の経済と市場が他国を大きく引き離したため、金融市場では「米国例外主義」が合言葉となった。しかし新しい年を迎え、こうした地理的な偏見を捨て、今後数年間で世界経済を再形成しそうな、より大きな地域間の競争を考慮すべき時が訪れたのかもしれない。

われわれは現在、米大陸・アジア・欧州の3大地域が人工知能(AI)、グリーンテクノロジー、セキュリティーといった主要分野で繰り広げる競争によってもたらされる長期的で世界的な成長サイクルの中にいるのかもしれない(私はこれを「3極化世界」と呼んでいる)。

世界経済は2010年代末以降、より大きな地域統合に向かったと言える。世界金融危機の余波でグローバル化は停滞し、英国は2016年に国民投票で欧州連合(EU)離脱を選んだが、その後の悲惨な経験を通じてナショナリズムの分は悪くなった。

新型コロナウイルスのパンデミックが、この傾向を後押しした。サプライチェーン(供給網)が麻痺し、各国政府は医薬品や必需品への即時アクセスが国家安全保障上の必須事項であることを認識した。

その結果、友好国や近隣国に限定してサプライチェーン(供給網)を構築する「フレンドショアリング」や「ニアショアリング」の動きが強まった。企業の経営者166人を対象にした2024年のベイン・レジリエンシー調査によると、サプライチェーンの短縮を計画している米企業の割合は2022年の63%から24年には81%に急増した。

<競争開始>

より大きな地域統合への動きは、グリーンテクノロジー、AI、セキュリティーの分野において、いずれか1つの支配的な市場に依存するのではなく、3つの地域全てがこれら分野への投資を支援する産業政策を推進することを意味するかもしれない。例えば、半導体製造工場、電気自動車(EV)および電池工場、防衛産業などだ。

中国はすでにグリーンテクノロジー関連の産業政策で先頭を走っており、国際エネルギー機関(IEA)によると、2023年には世界のクリーンエネルギー投資のおよそ3分の1を占めた。現在では太陽電池からバッテリー、EVに至るまで、クリーンエネルギー分野の多くを中国が独占している。中国はAI分野でも同じ戦略を用いているようで、自国の半導体産業を発展させ、米国への依存度を下げようとしている。

その過程で、中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係を強化し、2020年にはEUや米国を追い抜いてASEANが最大の貿易相手となった。

米国もまた、バイデン政権下で産業政策に積極的に取り組んでおり、半導体製造を支援するために約530億ドルを割り当てる「CHIPS・科学法」、すでに5000億ドル以上のプロジェクト資金が発表されている超党派の「インフラ法」、グリーンテクノロジーへの民間投資を大規模に促進する「インフレ抑制法」など、立法に大きな力を注いできた。

現在、急いで追いつく必要があるのは欧州だ。ドイツは再び「病」を患い、主力の自動車産業はギアをニュートラルに入れたまま成長が停滞している。問題の主因はドイツの財政健全性、すなわち数十年間にわたって投資を怠ってきたことにある。

しかし、この慎重さが解決策の一部となるかもしれない。ドイツは債務の対国内総生産(GDP)比率が63%前後とEU平均を大幅に下回っており、行動を起こすための財政的余裕は十分だ。

<米国に過剰投資>

この「3極化」への移行は投資家にとって何を意味するのだろうか。

第一に、今後数年間は米国以外で生まれた複数の原動力が世界の経済成長を引っ張る可能性がある。

米国の株式市場は2009年以来、文句なしに世界をリードしてきた。しかし米国の例外性はすでにドル、米国株、そして結果として米国と他の先進国市場との間に生じた過去最大のバリュエーションの差に反映されている。米国株は2年連続で20%のリターンを達成しており、経験則から3年目は期待できないことが分かる。

米市場はすでにフルに上昇しているため、投資家の期待や経済のファンダメンタルズにわずかな変化が生じただけでも、投資家は米国への高い投資比率を再考する可能性がある。

そのきっかけは、トランプ次期米政権になるかもしれない。

トランプ氏は大統領就任後、経済政策が行き詰まる可能性がある。一貫性のない政策、経済チームの主要メンバー間の見解の相違、共和党が議会において僅差で多数派を占めるに過ぎない、といった事情が重なる結果だ。

その一方で、他の2つの主要地域は立ち止まっていないだろう。

中国は昨年、デフレとトランプ氏がちらつかせる関税のリスクに対抗するため、金融、財政の両面で景気刺激策を次々と発表した。3月に開催する全国人民代表大会(全人代)では、このパッケージをさらに強化すると見られている。

一方、最大の輸出市場である米国から、同じく関税の脅しをかけられている欧州では、最大の経済国ドイツがついに「債務ブレーキ」を緩和し、経済の停滞と闘うために財政刺激策を実施する可能性がある。

こうした結果、今年は経済成長と株式の強気相場という両面で、地理的範囲が拡大すると予想している。米国経済は強大であり続けるだろうが、投資家は米国が全てではないことに気付くかもしれない。

(筆者はニューヨークを拠点とする投資顧問会社TPWアドバイザリーの創設者兼グローバル・ストラテジスト。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)