2月の総選挙(23日投開票)で勝利したメルツ・キリスト教民主同盟(CDU)党首が掲げた、5000億ユーロ(約80兆円)規模の「防衛・インフラ支出パッケージ」が生みの苦しみを味わっている。Bloombergによると「緑の党は、次期首相就任が有力なメルツ党首が打ち出したパッケージを支持しない」と表明、看板政策が廃案に追い込まれる恐れが出てきた。防衛力強化を目指すメルツ氏の政策を実現するためには、債務残高がGDPの3%以内と定められている憲法改正が必須となる。これには国会議員の3分の2の賛成が必要で、連立政権入りで合意している社会民主党(SPD)を含めても数は足りず、緑の党の賛成が不可欠になっている。だが同党のブラントナー共同党首は、「新政府の『選挙の贈り物』の配給を助ける気はない」(Bloomberg)とメルツ氏に反発しているという。
トランプ米大統領が欧州安全保障への関与を後退させようとしている中で、保守派のメルツ氏はドイツの軍事力強化とEUの政治同盟化を目指している、と受け止められている。同氏の計画は欧州の防衛力を強化する大きな一歩になると見られており、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国から歓迎されてきた。その計画が緑の党の反対で廃案になりそうだというのだ。この計画が廃案になれば「ウクライナの安全保障は欧州が担うべきだ」とするトランプ氏の目論見にも影響を与える。英国とフランスが中心となって進めているウ国防衛に向けた「有志同盟」の結成にも少なからず影響があるだろう。そんな大事な計画に緑の党はどうして反対すのか。Bloombergは次のように指摘する。「事情に詳しい関係者によると、緑の党に対するメルツ氏の扱いを巡り、(CDU)内部にも批判的な声がある。同氏は長年敵意を抱く緑の党に対して、感情的な知性を欠いていると関係者の1人は述べた」と。
なんということはない、感情的な軋轢だ。裏に政策的な違いがあるとはいえ、どうやら緑の党も絶対反対というわけではなさそうだ。クキース財務相は記者団に対し、「このような状況で、懸念や要求があるのは完全に普通だ」と述べ、「NATOの欧州の柱として(ドイツが)防衛努力を強化し、インフラ支出を増やさなければならないという2つの目標で、最終的には合意が得られると自分は楽観している」と述べている。Bloombergによると緑の党は「連立協議で蚊帳の外に置かれ、気候変動対策など同党の優先政策が無視されているとして、メルツ氏らを強く非難している」と指摘する。どこの国にもありそうな連立政権づくりに向けた条件闘争だろう。素人の楽観論など何の意味もないが、近いうちに連立政権入りと憲法改正で合意のニュースが届くのではないか。トランプ氏の登場で変わろうとする世界の、これも一つの現実だろう。あのドイツがついに均衡予算を捨てて軍事力の強化に動き出す。