Bloombergが今朝配信した記事を興味深く読んだ。タイトルは「トランプ氏長男、MAGA経済圏の収益化図る-ESGと真っ向対立」だ。ドナルド・トランプ・ジュニア、これがトランプ大統領の長男の正式な名前だ。メディアなどでは通常トランプ・ジュニアとか、単にジュニアまたはJr.と略称で呼ばれている。J.D.ヴァンス氏を副大統領に推薦したのもジュニア氏だ。大統領の信頼が厚い。トランプ政権で要職に起用されると見られていたが「昨年11月、父親がホワイトハウス復帰を決めてから1週間もたたずに『1789キャピタル』に加わった」(Bloomberg)とある。注目すべきはこの「1789キャピタル」だ。3年前、トランプ氏への大口献金者であり、元バンク・オブ・アメリカ(BofA)幹部のオミード・マリク氏や、強力な保守派支援団体ロックブリッジ・ネットワークをバンス副大統領と共に設立したクリス・バスカーク氏が創業した。目的ははっきりしている。富裕層の資金を集めMAGAの収益化を図ろうとしているのだ。
社名の「1789」は米国の権利章典が提案された年だという。その年を社名に冠した。創業者の1人であるマリク氏によると「(3年前に)政府の行き過ぎと、『自由を守る』ため金融業界をどう利用するかについての議論がなされた」という。そして「われわれは自分たちがサイレントマジョリティー(声なき多数派)を代表していることを認識していた」と強調する。この言葉は意味深だ。個人的には民主党と共和党に分断されている米国の深刻な現実が、ここから読み取れるとみる。独断と偏見で言えば民主党は本来サイレントマジョリティーを代表する政党であるはずなのだが、保守派で大金持ちを代弁しているかに見える共和党支持者が、「我々がサイレントマジョリティーを代表している」と主張しているのだ。例えば気候変動問題。民主党はカーボンニュートラルを積極的に推進してきた。それを支える金融業界の潮流がESG(環境・社会・企業統治)分野に特化した資産運用への傾斜だ。
EV(電気自動車)が一つの壁にぶち当たったように、ESG投資も不正の横行など当初の期待を裏切っている。こうした動きへの逆襲のように「1789キャピタル」が活動を始めている。トランプ大統領が唱えるMAGAは、ラストベルト(錆びた)地帯を念頭に置いた物づくり大国の復活だろう。同キャピタルが目指すのはまさにこのMAGAの収益化だ。「マジョリティーのために」、マリク氏の意気込みはよくわかる。ジュニアが経営陣に加わった新興投資会社に絶好のチャンスが訪れている。投資対象は目先的には、米大統領の最も裕福な支援者であるイーロン・マスク氏の、人工知能(AI)のスタートアップ企業であるxAIと、約3500億ドル(約52兆円)規模の価値を持つ非公開企業のスペースXだとBloombergは指摘する。運用資金の提供者はもちろん富裕層だ。だとすればそこに“落とし穴”はないのか。民主党にも共感できないが共和党にも懸念が残る。