▽トランプ氏長男、MAGA経済圏の収益化図る-ESGと真っ向対立

Gillian Tan、Katherine Burton

  • 右派的なSNSなどが「パラレルエコノミー」の一角と自ら位置付け
  • ジュニア氏の役割は投資家や案件を呼び込む一種のマグネット
Omeed Malik, co-founder and president of 1789 Capital, from right, Donald Trump Jr., executive vice president of development and acquisitions for Trump Organization Inc., and Christopher Buskirk, chief investment officer and co-founder of 1789 Capital, on the sidelines of the Future Investment Initiative (FII) Institute Priority conference in Miami Beach, Florida, US, on Thursday, Feb. 20, 2025. 
Omeed Malik, co-founder and president of 1789 Capital, from right, Donald Trump Jr., executive vice president of development and acquisitions for Trump Organization Inc., and Christopher Buskirk, chief investment officer and co-founder of 1789 Capital, on the sidelines of the Future Investment Initiative (FII) Institute Priority conference in Miami Beach, Florida, US, on Thursday, Feb. 20, 2025.  Photographer: Zak Bennett/Bloomberg

新興の投資会社1789キャピタルに最近、絶好のチャンスが訪れた。トランプ米大統領の最も裕福な支援者であるイーロン・マスク氏の人工知能(AI)スタートアップ、xAIと、約3500億ドル(約52兆円)規模の非公開企業であるスペースXに直接投資する機会だ。

    1789キャピタルには大きな利点がある。大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏を擁しているのだ。同氏は大統領が唱えるスローガン「MAGA(米国を再び偉大に)」を支持する人々にとって皇太子的存在となっている。

  米国では今、右派的なSNSや電子商取引企業、投資ファンドなどが、主流のビジネスに代わる経済圏「パラレルエコノミー」を形成していると自らを位置付けており、ジュニア氏はその最前線に立つ人物としてファンから称賛されている。

  1789キャピタルでのジュニア氏の役割は明確だ。他の投資家がするような数値の分析や綿密な調査は行わない。代わりに、MAGAエコシステム(生態系)とマスク氏のような利益重視の信奉者たちのネットワークを活用し、確実に稼ごうとしている。

Key Speakers At The FII Priority Summit
マリク氏(中央)(マイアミでの会議で、2月)Photographer: Zak Bennett/Bloomberg

  トランプ大統領について、そして2期目のトランプ政権が米国と世界をどこへ導く可能性があるかについて、ジュニア氏ほど明確に理解している人物はいないだろう。

  ジュニア氏は今、ワシントンでの活動をやめ、新たな使命に専念している。それは、父親の描く米国のビジョンをマネタイズ(収益化)することだ。

  大企業も小規模なスタートアップも大統領に絡むあらゆる出来事に目を光らせている今、ジュニア氏によるお墨付きの有無が、例えば、マスク氏のxAIや スーペスXに関係するビジネスチャンスへのアクセスを左右する。ジュニア氏の心証を悪くした企業は冷遇されかねない。

  ジュニア氏は、父親や不動産事業を経営する次男エリック氏同様、一家のビジネス帝国が抱える非常に多くの問題を巡る懸念を一蹴している。

  パラレルエコノミーの企業は、必ずしも一般国民に利益をもたらしてきたわけではない。実際、当初支援していた有力な投資家が資金を引き揚げ、株主が大きな損失を被ることもあった。

  しかし、トランプ政権が発足してわずか2カ月、1789キャピタルは他に類を見ないほどの好位置につけている。

  大統領がフロリダ州パームビーチに所有する私邸「マールアラーゴ」から2マイル(約3.2キロメートル)離れた地点に本社を置く1789キャピタルは、いわば「トランプワールド」の中心近くに位置し、幅広い分野で深い関係を築いている。

「サイレントマジョリティー」

  1789キャピタルは3年前、トランプ氏への大口献金者であり、元バンク・オブ・アメリカ(BofA)幹部のオミード・マリク氏や、強力な保守派支援団体ロックブリッジ・ネットワークを今のバンス副大統領と共に設立したクリス・バスカーク氏が創業。

  共和党大口献金者のレベッカ・マーサー氏も加わった。同氏は、ヘッジファンド王ロバート・マーサー氏の娘で、スティーブ・バノン氏の保守系ニュースサイト「ブライトバート・ニュース」を支援している。

The 2024 Republican National Convention
ドナルド・トランプ・ジュニア氏(2024年)Photographer: Al Drago/Bloomberg

  1789キャピタルのアイデアは、共和党の献金者層の内部で大きな影響力を持つようになったロックブリッジが2022年に開いたパームビーチ会合でのコーヒーを飲みながらの話し合いの中で生まれた。

  マリク氏によると、政府の行き過ぎと、「自由を守る」ため金融業界をどう利用するかについての議論がなされたという。「われわれは自分たちがサイレントマジョリティー(声なき多数派)を代表していることを認識していた」。

  そこで自分たちの投資会社を設立し、米国の権利章典が提案された年を社名に冠した。

  トランプ・ジュニア氏(47)は昨年11月、父親がホワイトハウス復帰を決めてから1週間もたたずに1789キャピタルに加わった。これはワシントンの多くの人々を驚かせた。バンス氏を副大統領候補として推薦したジュニア氏の役割を考慮すると、同氏は政権に近い地位に就くと思われていたためだ。

  ジュニア氏は、大統領就任式後はホワイトハウスには行っていないと述べている。

  同氏は偽善者や日和見主義者を見抜き、名ばかりのMAGA支持者と真の支援者を見分けることができると主張。「米国第一」主義の誠実さ、あるいは逆に疑わしい兆候が、取引を成功させるか失敗させるかを左右すると話している。

  「私は企業文化が一致しない大きな案件を断ってきた」とジュニア氏は述べ、「最近になってMAGA派になった人もいるが、彼らが本当に信じているのかどうかは分からない」としている。

  1789キャピタルは、対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」を開発したオープンAIへの投資の誘いを断った。その理由の一部は、創業者のサム・アルトマン氏とマスク氏の確執が続いており、アルトマン氏が24年にバイデン大統領(当時)の選挙活動に献金したことによるものだと、事情に詳しい関係者は明らかにした。

  アルトマン氏が最近、トランプ政権に対して好意的なスタンスを示した後も、1789キャピタルは見解を変えることはなかった。ジュニア氏は「成功には本物であることが必要」との考えだ。

MAGAマグネット

  ジュニア氏の1789キャピタルにおける役割は、同社に投資家や案件を呼び込む一種のMAGAマグネット、つまり政治活動資金の調達団体のようなものだ。

  2期目のトランプ政権発足前、1789キャピタルはウォール街の基準ではわずかな額である約2億ドルを集めた。就任式以後、さらに5億ドルを調達した。

  投資家の数は現在約30人になっている。関係者によると、今年半ばまでに最初のファンドで10億ドル、来年には2番目のファンドで30億-50億ドルを集めることを目指している。

  1789キャピタルには資金調達計画について一切コメントを控えている。同社が顧客として期待しているのは、共和党が主導権を握る州の基金や公的年金だ。

Omeed Malik,Pam Bondi
マリク氏(左、2023年11月)Photographer: Phelan M. Ebenhack/AP Images

  マリク氏(45)は「われわれは大規模なマルチ戦略の資産運用会社を構築しようとしている」と説明。現在は成長株に重点を置いているが、プライベートクレジットの運用会社やヘッジファンドの開始も考えていると話す。

  マリク氏によれば、人材を求めているが、思想が一致する場合に限るという。16年の大統領選では民主党のヒラリー・クリントン氏に投票したが、19年には共和党にくら替えした。共和党の有力者たちと親交を深め、トランプ大統領とロバート・ケネディ・ジュニア氏の連帯を選挙前に仲介。最近ではビベック・ラマスワミ氏が来年オハイオ州知事選に出馬するための資金調達を手伝っている。

  マリク氏は、MAGAスタイルの投資が持つ可能性をESG(環境・社会・企業統治)分野における過去のブームになぞらえている。

  保守派は、ESGを米資本主義を脅かす「目覚めた(ウォーク)」リベラル派の議題の一部だと批判。そして、同氏はESG投資家とは異なり、兵器や化石燃料に関係する企業への投資を好んで行っている。

  それでも、実績はまだあまり立証されていない。1789キャピタルは5000万ドル余りをマスク氏のxAIとスペースXに直接投資している。両社の担当者はコメントの要請に応じなかった。

原題:Donald Trump Jr.’s Big Plans to Monetize MAGA Take Shape at 1789 (抜粋)