▽【米国市況】S&P調整局面入り、関税巡る懸念で-ドル147円台後半

Rita Nazareth

  • 米国債に逃避買い膨らむ、バークレイズは今年の米成長予想引き下げ
  • 円は主要通貨の中で唯一、対ドルで値上がり-147円42銭に一時上昇

13日の米国株式市場は下落。S&P500種株価指数は直近高値からの下落率が調整局面入りの目安である10%に達した。トランプ大統領が仕掛ける貿易戦争により、米経済の成長が脅かされるとの懸念が強まっている。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数5521.52-77.78-1.39%
ダウ工業株30種平均40813.57-537.36-1.30%
ナスダック総合指数17303.01-345.44-1.96%
Traders Search For Havens As US Stock Selloff Rattles Nerves
S&P500種は調整局面入りしたPhotographer: Michael Nagle/Bloomberg

  トランプ大統領はこの日、欧州産のワイン、シャンパン、その他のアルコール飲料に200%の関税を課す方針を表明した。欧州連合(EU)が米国の鉄鋼・アルミニウム関税に対抗し、バーボンなどを含む260億ユーロ(約4兆2000億円)相当の米国製品に関税を課すと発表したことを受けたもので、貿易戦争が激化するリスクが改めて意識された。トランプ氏はその後、鉄鋼・アルミ関税を撤回することはないとしたほか、4月2日にも貿易相手国に課す予定の相互関税計画も堅持する考えを示した。

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  ノースライト・アセット・マネジメントのクリス・ザッカレリ氏は「今年は明らかに、かなり振れの激しい年になるだろう。経済および欧米の同盟関係における急進的な変化がリセッション(景気後退)につながるのか、あるいは将来的に成長加速につながるのかはまだ分からない」と指摘。「そのため当面は、慎重さとリスク回避の姿勢が正当化される」と述べた。

  2月の米生産者物価指数(PPI)はサービスコストの低下が寄与し、前月比横ばいとなった。しかし、食品とエネルギーを除く財価格が大幅上昇したほか、米金融当局が重視するインフレ指標に反映されるカテゴリーは、それほど好ましい内容ではなかった。

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  グラナイト・ベイ・ウェルス・マネジメントのポール・スタンリー氏はPPIについて「過去のもので、本当に懸念されるのは関税がもたらし得るインフレ上昇圧力だ。これは市場と米金融当局の双方にとって波乱要因となる」と述べた。

  S&P500種は1.4%、ナスダック100指数は1.9%それぞれ下落。ダウ工業株30種平均は1.3%下げた。ハイテク7社で構成する「マグニフィセント・セブン」に連動するブルームバーグの指数は2.5%下落。個別銘柄では、見通しが失望を誘う内容となったソフトウエアメーカーのアドビが売られた。

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  半面、インテルは急伸。次期最高経営責任者(CEO)にリップブー・タン氏を起用すると発表したことが好感された。同氏はインテルの元取締役会メンバーで、米ソフトウエア会社ケイデンス・デザイン・システムズのCEOや会長を務めた。

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  パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)のリビー・キャントリル、アリソン・ボクサー両氏は「当社では選挙後、トランプ大統領の2期目の経済政策がもたらすであろう影響を、野菜とデザートの組み合わせに例えた」と説明。「一部の政策は、経済と市場に苦い後味を残すであろう野菜だ。一方で、成長を支えるとみられるデザートの政策もあるだろう」と述べた。

  その上で「第2次トランプ政権による正味の経済効果は、これらの政策の順序、範囲、組み合わせに左右される可能性が高く、上振れと下振れの両方のリスクがある」と続けた。

S&P 500 Extends Plunge From Peak to 10%

国債

  米国債相場は上昇(利回りは低下)。米成長見通しの悪化を背景に株が売り込まれ、安全資産としての国債の妙味が強まった。10年債と30年債の利回りは月初来の高水準をつける場面もあったが、その後は株が売られるのに伴い、利回りは低下した。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.59%-4.3-0.92%
米10年債利回り4.27%-4.6-1.07%
米2年債利回り3.95%-3.4-0.84%
  米東部時間16時54分

  債券投資家は今週、インフレ鈍化を示す指標を総じて無視している。トランプ政権の通商政策による潜在的な影響を考慮し、一時的なものだと考えているためだ。この日もPPI発表直後の反応は長続きしなかった。

  コロンビア・スレッドニードルのグローバル金利ストラテジスト、エド・アルフセイニ氏は「株安に対する緩衝材として米国債は素晴らしい役割を果たしている」と指摘。「これは投資家にとって非常に望ましい兆候だ。株式から国債に資金を振り向ける分散戦略が依然として有効であることを示している。これは非常に重要だ」と述べた。

  貿易戦争が米経済に打撃を与えるとの見方から米株が売られ、米国債への逃避買いが膨らんだ。バークレイズのエコノミスト陣は今年の米成長率見通しを下方修正した。関税がインフレを押し上げるとみているものの、年内の米利下げ予想については2回と、従来の1回から引き上げた。

  クレジットサイツの投資適格およびマクロ戦略責任者ザカリー・ グリフィス氏は、足元で繰り広げられている関税による脅威が「インフレを押し上げ、政策金利が高止まりするとの懸念に拍車をかけている」と指摘。「最終的には、景気減速が裏付けられるか、それともその逆を示すデータが出るかによって、10年債利回りが4.25%を継続的に下回るか、あるいは当面4.25-4.75%の間で推移するかを左右するだろう」と述べた。

  金利スワップ市場では、年内の米利下げ幅が66ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と見込まれている。これは0.25ポイントの利下げが少なくとも2回行われるとの見方を示しており、今年最初の利下げが完全に織り込まれているのは7月会合となっている。

  この日実施された30年債入札は引き合いが弱かったが、国債利回りはその後も株安に伴い、さらに低下した。

為替

  ニューヨーク外国為替市場では、ブルームバーグ・ドル・スポット指数が上昇。PPI統計を受けて上げ幅を縮小する場面もあったが、市場は引き続き、トランプ政権の通商政策を巡るリスクに注目している。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1267.891.540.12%
ドル/円¥147.82-¥0.43-0.29%
ユーロ/ドル$1.0855-$0.0033-0.30%
  米東部時間16時54分

  円は主要通貨の中で唯一、ドルに対して上昇。一時は1ドル=147円42銭まで買われた。日本銀行の植田和男総裁が金融政策の正常化に前向きな発言をしたことで、利上げ観測が強まっている。

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ドル円相場の推移

  ベッセント米財務長官は経済専門局CNBCとのインタビューで、最近のドル相場の下落について自然な「調整」だと述べ、懸念していないとの考えを明らかにした。「トランプ大統領の当選と共和党の大勝利を受けて、ドルは多くのことを織り込んだ」とし、「調整されるのは自然なことだ」と述べた。

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  ユーロは対ドルで続落。UBSアセット・マネジメントは、財政支出拡大に向けたドイツの憲法改正について、議会が可決すると過度に確信しており、否決された場合、債券市場が急上昇するリスクが高まると指摘した。

原油

  ニューヨーク原油相場は3日ぶりに下落。エスカレートする貿易戦争が経済成長に悪影響を及ぼす兆候が出ており、世界の需要に対する弱気な見通しが強まった。

   国際エネルギー機関(IEA)は、産油国が生産量を回復させる一方で、貿易戦争の激化で世界的な石油需要が圧迫され、供給過剰が深刻化する恐れがあるとの見方を示した。世界市場は2025年に日量約60万バレルの供給過剰となる可能性が高いとしている。

関連記事:貿易戦争が石油需要脅かす、産油国増産で供給過剰深刻化も-IEA

Oil Slides as Trade War Threatens Demand | IEA projects oversupplied market amid dim macroeconomic outlook

  アゲイン・キャピタルのパートナー、ジョン・キルダフ氏は、アトランタ連銀が1-3月(第1四半期)の米国内総生産(GDP)を年率1.5%のマイナス成長と予測したが、そうした弱気な経済見通しが価格のリスクになっているとみる。

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  キルダフ氏は「米経済に対するネガティブな見通しは、原油市場にとっては問題だ」と指摘。「相場が66ドルというレンジの下限付近にあるのはまさにそれが理由だ。この水準を割り込めば50ドル台に下げるだろう」と付け加えた。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物4月限は前日比1.13ドル(1.7%)安の1バレル=66.55ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント5月限は1.5%下落し69.88ドルで引けた。

  金スポット相場は3日続伸し、最高値を更新した。米インフレ指標が落ち着いた内容となり、金融当局が近く利下げを実施するとの論拠が裏付けられた。また貿易政策を巡る緊張の高まりから逃避需要も強まった。

  TDセキュリティーズの商品戦略担当の世界責任者、バート・メレク氏は、前日の消費者物価指数(CPI)と13日のPPIは、「信頼感低下により需要が鈍化し、景気抑制的な政策を緩める余地が生まれていることを示唆する」と分析。「金はヘッジ資産のような動きを見せており、株式のようなリスク資産とは反対の方向に動いている」と述べた。

  短期金融市場は米金融当局による6月の25bp追加利下げを完全に織り込んでいる。25年全体では合計で約70bpの利下げとの予想だ。金利低下は利息を生まない金にとって追い風となる。

Gold Trades Near Record as Markets Assess Rate Cut Path | Donald Trump's tariff agenda has boosted haven buying

  金融機関は、トランプ氏の貿易政策を含む複数の懸念要素を背景に金は一段と上昇するとの見方を強めている。マッコーリー・グループはリポートで、4-6月(第2四半期)に1オンス=3500ドルに急伸すると予想。またBNPパリバも同四半期の金相場見通しを上方修正し、平均で3000ドルを大きく上回る水準になるとしている。

  金スポット価格はニューヨーク時間午後2時51分現在、前日比47.44ドル(1.6%)高の1オンス=2982.21ドル。ニューヨーク商品取引所の金先物4月限は44.50ドル(1.5%)上昇し2991.30ドルで引けた。

原題:S&P 500 Slides Into Correction as Treasuries Climb: Markets Wrap

Treasuries Snap Losing Streak With US Stock at Six-Month Lows

Dollar Eases Gains After Soft February PPI Reading: Inside G-10

Oil Retreats as IEA Says Trade War Poses Risks to Global Demand

Gold Touches Fresh Record High on Fed Easing Bets, Haven Demand(抜粋)