▽春闘の賃上げ率２年連続５％超、34年ぶり高水準－日銀利上げに追い風
照喜納明美、横山恵利香
- 平均賃上げ率は5.46％、中小は5.09％と33年ぶり５％超え
- 日銀は賃金･物価の循環に自信深めている､利上げ前倒し視野もとの声
2025年春闘の賃上げ率は２年連続で５％を超え、34年ぶりの高水準となった。大企業中心に満額回答が相次ぐ中、賃金上昇のモメンタム（勢い）が継続していることが改めて示された。金融政策の正常化へ春闘の動向を注視している日本銀行にとっても追い風だ。
日本最大の労働組合の全国組織である連合が14日公表した2025年春闘の第１回回答集計によると、平均賃上げ率は5.46％。前年同時期（5.28％）を上回り、1991年の最終集計（5.66％）以来の高水準となった。ベースアップ（ベア）は3.84％。
300人未満の中小組合の賃上げ率は5.09％で、５％を超えるのは1992年以来、33年ぶり。ベアは3.62％だった。前年同時期はそれぞれ4.42％、2.98％。
日銀は１月の金融政策決定会合で追加利上げを決めたばかりで、来週の会合では現状維持が見込まれている。もっとも、日銀は経済・物価が見通し通り推移すれば利上げを継続する方針を維持。内田真一副総裁は、物価の基調を考える上で「一番重要なのは賃金」と指摘し、賃上げ率が高いほど見通し実現の確度が上がると語っていた。好調な春闘を受けて市場の利上げ観測が前倒しされる可能性がある。
第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、「日銀は賃金と物価の循環に自信を深めているはずだ」と指摘。次の利上げのタイミングは７月が有力だが、５月や６月の会合が視野に入る可能性も出てきたとの見方を示した。その上で、日銀はトランプ米政権の関税措置による経済の下振れリスクも考慮しながら金融政策の方針を決定することになると語った。
春闘賃上げ２年連続５％超え
前年同時期を上回る
出所：連合
備考：24年までは最終回答集計。25年は第１回集計時点
ブルームバーグの最新のエコノミスト調査では、今春闘の賃上げ率の予想中央値は5.1％。約４割は春闘結果を受けて利上げの時期が前倒しされる可能性があるとみている。昨年は連合が第１回回答の集計結果を発表した数日後、日銀は17年ぶりとなる政策金利の引き上げに動いた。同集計の平均賃上げ率は5.28％と33年ぶりの高水準だった。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、今回の結果は「日銀にとってはオントラック（想定通り）」だとし、「一定のペースでの利上げを支える要因の一つになる」と指摘。一方で、昨年同様に高水準の賃上げ率が利上げタイミングを３月や５月に大きく前倒しする材料にはならないとの見解を示した。
関連記事：調査リポート:日銀３月会合は全員が現状維持-利上げ予想前倒しの動き
連合は今春闘の賃上げ目標を、昨年と同水準の「５％以上」、中小の労組は格差是正分を加えた「６％以上」に設定している。
芳野友子会長は会見で、賃上げによる日本経済の「ステージ転換に着実に向かっている」と評価し、「これからが正念場だ」と語った。中小組合に関しては、人手不足に加えて「地域の政労使が同じ方向を向いていることも結果に結びついているのではないか」と述べ、連合としてしっかりサポートしていく考えを示した。
官民連携が結実
高水準の賃上げ回答は加盟労組から既に相次いでいた。主要企業の集中回答日には、トヨタ自動車やマツダが組合の要求通り満額回答。自動車総連によると、平均回答額は1975年以降で最高水準となった。国内最大の産業別労組で、中小組合が約７割を占めるＵＡゼンセンでパートタイムの賃上げ率が過去最高だった。
今春闘は賃金上昇のモメンタムを定着させることができるかが焦点。社会全体として賃金の底上げを実現するには、雇用形態や企業規模間の格差是正が鍵となる。12日に政府は労働団体、経済界の代表らと政労使会議を開き、価格転嫁や生産性向上に向けた取り組みについて意見交換した。
同会議で石破茂首相は、多くの企業から高水準の回答が得られており、官民連携の取り組みが「実を結んできている」と評価。「今後の中小企業や小規模企業の賃上げに向け、政策を総動員する」と語った。
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