トランプ相互関税、9日に発効してから13時間後というタイミングで、大ドンデン返しが起こった。中国を除いて上乗せ分の関税を90日間停止。この間、報復を行わなかった国々とは包括的な交渉を行うという。これに対して中国には21%の関税を新たに上乗せして即時発動した。これで対中国の相互関税は合計で125%になる。中国はどうするのだろう。Bloombergは今回の方針転換について、「相互関税の発動を受けて金融市場がさらに混乱し、リセッション(景気後退)懸念も強まり、トランプ政権に対して経済界や投資家から政策を見直すよう求める圧力が強まっていた」と解説する。これに対してベッセント財務長官はまったく異なる見解を表明している。「同盟国と貿易協定を結び、その基盤を築いてから、中国に対して不均衡な貿易構造を是正するよう集団でアプローチする」。これが事実ならマーケットを巻き込んだ大混乱劇、狙いは中国ということになる。

同氏の発言をもう少し詳しくみよう。ワシントンの米銀行協会(ABA)での講演後の質疑応答での発言と、Bloombergは伝えている。「恐らく同盟国と合意に達することができるだろう」、「彼らは軍事面では良い同盟国だが、経済面では完璧な同盟国ではない」。「EUは米国から離れ、中国に軸足を移そうとしている」と警告し、「スペインは明らかにその路線を支持している」と強調した。そのうえで、「それは自らの首を絞めるようなものだ」と警告する。さらに以下のような解説も行なっている。「今回の方針転換をトランプ氏の勝利」と位置付け、他国との協議において「大統領は最大限の交渉力を生み出した」と評価する。「この瞬間まで方針を貫くには大きな勇気が必要だった。これは最初からトランプ氏の戦略だった」と。これが事実かどうかわからない。後講釈のような気もする。Bloombergはトランプ氏が債券市場の動きを気にしていたとも証言する。

中国が報復措置として米国債の売却に動くことを気にしていたのかもしれない。トランプ氏は方針転換の理由を、「国民が少し行き過ぎていると(感じているようだったから)」と記者団に説明した。真相がはっきりするのはもう少し先だろう。だが、交渉が始まるのはこれからだ。気になるのは7日に行われた石破・トランプ会談に関して一部に、「明らかに失敗だった」との見方があること。加えて、交渉責任者に総理側近の赤沢亮正・経済再生担当大臣が指名されたことだ。交渉担当者に求められる資質は、利害が複雑に絡み合っている国内関係者を納得させる政治力だ。党内野党を貫いてきた石破氏の側近ではあるが、トランプ政権と対等に渡り合い、国内を収める力があるかどうか。ど素人が政界内の力関係を気にしても仕方ないが、日本の将来に関わる交渉である。二転三転する総理の政策判断を支えている側近に“腕力”はありやなしや。