▽【米国市況】株は大幅反落、米中貿易摩擦が激化-円は一時144円02銭

Natalia Kniazhevich、Matthew Griffin

  • 長期債中心に下落、好調な30年債入札後にやや下げ渋る
  • ドル指数は昨年10月以来の安値水準-金スポットは最高値
Wall Street rally pauses.
Wall Street rally pauses. Source: Bloomberg

10日の米株式相場は大幅反落。米中貿易摩擦の激化により、市場を経済不安が覆い、売りが膨らんだ。ドルや原油価格も下げ、米国資産を手じまう動きは金融システムの混乱を示している。円は対ドルで一時2.5%上昇し、1ドル=144円02銭を付けた。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数5268.05-188.85-3.46%
ダウ工業株30種平均39593.66-1014.79-2.50%
ナスダック総合指数16387.31-737.66-4.31%
Traders On The Floor Of The NYSE As US Stock Futures Trade Near Bear Market With China Retaliation
経済への不安高まるSource: Bloomberg

  S&P500種株価指数は前日に5年ぶりの大幅高を記録したが、この日は景気循環に連動した資産が再び売られた。トランプ大統領が貿易交渉について発言のトーンを弱めたが安堵(あんど)感にはほとんどつながらなかった。米中の貿易が事実上止まったことで、企業業績や経済成長、新規採用にどういった影響が及ぶかを見極めたいとのムードが広がった。

  トランプ大統領はこの日、関税に関して最初の合意に近づいていると示唆した。にもかかわらず、市場の熱狂は不安へと逆戻りした。ホワイトハウスが中国からの輸入品に賦課している関税は少なくとも計145%に上昇すると明確にし、二大経済大国間の貿易戦争の激化が世界経済に長期的な打撃をもたらすのではないかとの懸念が高まった。  

関連記事:トランプ氏「移行上の問題」はあり得る、対中関税は計145%に (2)

  FBBキャピタル・パートナーズのマイケル・ベイリー氏は「投資家は熱狂から冷めつつあり、米中の争いが恐らく深刻化すると認識し始めている」と指摘。「10%の基本税率が響く上に」、上乗せ関税を停止する「90日間はあっという間に過ぎ、関税引き上げの痛みが戻り、中国が強硬に反撃する可能性があるという事実に気付き始めている」と述べた。

  ハセット米国家経済会議(NEC)委員長は、関税を巡る貿易相手との交渉はすでにかなり進んでおり、先週時点でほぼ合意に達しているものもあると述べた。ただ、リスク資産の売りは、貿易交渉が適時にまとまるかについて、懐疑的な見方が強まっていることを示唆している。

関連記事:米と関税で複数の国が協議進展、合意近いものも-NEC委員長 (1)

  マニュライフ・インベストメント・マネジメントのネイサン・スフト氏は「関税を巡る不安は依然として根強く残っていると考える。ボラティリティーは上下両方向に作用している。結論が出ていないため、今後の展開にはさらなる相場変動が含まれる可能性が高い。実際には、関税交渉プロセスが長期化する可能性が高いという逆の展開となっている」と述べた。

S&P 500 Falls After Biggest Daily Gain Since 2008

  ガベカル・リサーチのニコラス・オーディン氏は「トランプ政権の姿勢は全面的な貿易戦争から中国に対する集中攻撃へと変化した」と指摘。「中国は報復措置に出たことで自らを追い詰めたと、ほとんどの投資家は考えている。中国の見解は異なる。中国では、トランプ氏の譲歩を米国の弱さの表れと解釈する声が多く、従って、中国が事態をエスカレートさせる決断をしたことの正当性を示すものと捉えている」と述べた。

  ヘッジファンド会社ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者で富豪のレイ・ダリオ氏は、今週の世界的な市場混乱により、投資家は「トラウマやショック、恐怖といった要素」を抱えていると述べた。

  同氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「米国の信頼性に対する心理や姿勢に極めて大きな影響を与えた」と述べ、「もっとうまい対応があったはずだ」とも語った。

関連記事:ダリオ氏、関税巡る混乱で投資家に「トラウマ」-米国の信頼性に打撃

  BMOキャピタル・マーケッツのベイル・ハートマン氏は「貿易戦争の結果、早急な影響は弱まったとしても、関税主導のインフレが依然として起こりつつある」と発言。「関税引き上げがインフレにどの程度影響するのかは依然として未知数であり、90日間の停止期間をはるかに超えてからでないと解決しない問題だろう」と語った。

  朝方に発表された3月の消費者物価指数(CPI)は全般的にインフレ圧力の後退を示唆したが、トランプ大統領が課した高水準の関税が経済に影響を及ぼすとみられるため、今後数カ月でこうした状況は変わり得る。

関連記事:米コアCPI、予想外に伸び鈍化-総合指数は5年ぶりの低下 (3)

  eToro(イートロ)のブレット・ケンウェル氏は「インフレの健全な低下か、それとも需要の大幅な減少か。米金融当局の利下げを正当化し、消費者の負担を軽減するにはインフレ率の低下は必要だ。しかし、経済活動の大幅な落ち込みによるインフレ率の低下は、経済を危険にさらすことになり、望ましい道とは言えない」と述べた。

米国債

  米国債市場では年限長めの国債が下落(利回り上昇)。30年債利回りは一時13ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)余り上昇して4.875%に達した。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.87%13.12.76%
米10年債利回り4.42%9.12.11%
米2年債利回り3.86%-4.4-1.12%
  米東部時間16時37分

  30年債入札(発行額220億ドル)で需要が強かったため、償還期間が長めの米国債はそれまでの下げを縮小する場面があった。一方、短期債はコアCPIの伸びが鈍化したことに後押しされ、上昇を続けた。

  トランプ大統領の貿易政策の影響で、米国債相場は今週値動きが激しくなり、米国資産への投資意欲が減退。米国債が依然として世界で人気の高い安全資産であるかどうか疑問視されていたが、今回の堅調な入札結果は米国債の買い手が依然として多いことを示した。

  30年債入札の落札利回りは4.813%。入札前取引の利回り4.839%を下回った。しかし、相場が上昇局面に入るきっかけにはならなかった。

  TJMインスティテューショナル・サービシズの金利ストラテジスト、デービッド・ロビン氏は「実際には需要は短期売買のトレーダーによるものだった」と指摘。買って保有し続ける投資家から持続的な関心はうかがえないと述べた。長期債は依然として非常に不安定で、枯渇のリスクがある海外需要に依存しているとの見方を示した。

外為

  外国為替市場ではドル指数が下げ幅を拡大。昨年10月以来の安値水準を付けた。大規模な関税導入前の米CPI統計で、総合指数が前月比で予想外に低下したことを受け、ドル売りが優勢になった。スイス・フランや円など安全と見なされる通貨は特に堅調だった。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1245.27-19.51-1.54%
ドル/円¥144.83-¥2.93-1.98%
ユーロ/ドル$1.1184$0.02352.15%
  米東部時間16時38分

  ブラウン・ブラザース・ハリマン(BBH)のストラテジスト、ウィン・シン氏はCPIについて、「適切なタイミングで連邦公開市場委員会(FOMC)が利下げを実施する根拠になるだろう」と述べた。

  BNYメロンの市場戦略・インサイト責任者、ボブ・サベージ氏は「市場は依然としてドルと米国資産からの分散投資に注目している」と記述。「ドル安はインフレ懸念をさらに高めるだろう」と述べた。

原油

  ニューヨーク原油先物相場は急反落。前日はトランプ大統領による突然の上乗せ関税一時停止を受けて大幅高となっていたが、この日は貿易戦争を巡る懸念が再び強まった。

  原油相場は月初から大幅に値下がり。トランプ氏の強硬な関税政策により、世界経済がリセッション(景気後退)に陥り、原油需要の減退を招くリスクが意識されている。

  石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成する「OPECプラス」による増産も供給過剰懸念を強め、相場の重しとなっている。

  米エネルギー情報局(EIA)は今年の世界の原油需要の伸びと国内生産量に関する見通しを下方修正した。トランプ氏の関税政策とそれに伴う経済見通しへの影響を加味した。ただ、報告書は関税に関する前日の発表前にまとめられた。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物5月限は、前日比2.28ドル(3.7%)安い1バレル=60.07ドルで引けた。ロンドンICEの北海ブレント6月限は3.3%下げて63.33ドル。

US Crude Saw Biggest Daily Swing Since 2022 | Prices touched a four year low Wednesday before jumping

  金スポット価格は最高値を再び更新。トランプ大統領の関税政策が世界経済に打撃を与えるとの懸念が根強く、安全資産とされる金への逃避買いが膨らんだ。

  金スポット価格は一時、約3%高の1オンス=3176.46ドルまで買われた。

  トランプ政権は関税政策で場当たり的な対応に終始しており、金融市場は不透明感からなかなか明確な方向性を見いだせずにいる。これが金相場の追い風となっており、年初来では21%値上がり。米利下げや中央銀行による金購入への期待も支援している。

  UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの商品・アジア太平洋通貨責任者、ドミニク・シュナイダー氏は「当社は金に対して非常に前向きな見方を維持している」と指摘。「次の焦点はどこかの時点で米連邦準備制度理事会(FRB)が動くことであり、そうなれば金相場に一段の追い風が吹く」と述べた。 

  金スポット価格はニューヨーク時間午後2時54分現在、前日比89.66ドル上げて1オンス=3172.36ドル。COMEXの金先物6月限は98.10ドル(3.2%)高い3177.50ドルで引けた。

原題:SS&P 500 Tumbles 3.5% After US-China Feud Heats Up: Markets Wrap(抜粋)

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