トランプ関税ばかりに注目が集まっているが、America FirstやMAGA(Make America Great Again)を考えるうえで大事なのは、トランプ大統領が掲げる政策の全体像だろう。それを考えるうえで極めて重要な法案がきのう、米議会の下院を通過した。上院はすでに可決済み。Bloombergによると同大統領と共和党の議会指導部は、「セーフティーネットプログラムのさらなる削減を強く求める財政タカ派の強硬派グループを説得」、下院採決にこぎつけた。結果は賛成216、反対214。たったの2票差だ。それでもまとまりの悪い共和党が全員賛成した意味は大きい。中身は①10年で最大5.3兆ドルの減税②5兆ドルの債務上限引き上げ。今後の方針を示す法案に過ぎず、実現するまでの道のりはまだまだ遠い。それでもこれによってトランプ氏が掲げた公約の全体像が、朧げながら見えてくる。

柱は第1期政権と一緒で減税だ。グローバル主義によって傷ついたラストベルト(錆びついた)地帯の国民を減税によって潤し、家計の購買力を高めたうえで海外に流出した工場を構内に呼び戻す。これによって米国の黄金時代の再建する。これがMAGAの基本政策だ。だが、減税だけを先行させて国内の購買力を高めても、減税の果実は対米輸出の最大黒字国である中国に多くを吸い上げられてしまう。だから減税を実現する前に、不公正な貿易慣行を糺さなければならない。トランプ関税の役割だ。理想論と言えばそれまでだが、新自由主義のもとで広まったグローバル主義への“反抗”だろう。就任時にまだ30代だったラストベルト出身のJ.D.バンス氏を副大統領に指名したのも、この政策に沿った人事とみていい。同盟諸国に防衛費の負担増を求める強硬策も、米国財政の赤字体質を改善するための手段だ。

評判の悪いDOGE率いるイーロン・マスク氏に、政府の無駄排除を要請したのもMAGAの趣旨に沿っている。ただし、何事にも行き過ぎがある。相互関税の税率根拠がいい加減であることや、中国に対する関税が累計で145%に達した現状は、明らかに行き過ぎている。これだと貿易戦争を仕掛けているようにしか見えない。MAGAにとっても逆効果だ。マスク氏が強行したUSAID(米国際開発庁)の投資削減も、説明不足の感は否めない。米政府の予算には莫大な無駄が含まれている。それをもっと丁寧に説明すべきだった。全体は正しくても部分だけを取り出すと、不安と混乱と不況を招く。経済政策の恐ろしい一面だ。そこを懇切丁寧に説明するのが政治家の勤めだという気がする。翻って日本。与野党を含めて各政党がここにきて、減税や一時金の給付を主張し始めている。泥縄、付け焼き刃、選挙目当て・・・。理念も覚悟も、理想もない。予算審議はなんだったのか。少しはトランプ氏を見習え。