nennkinnkaikaku年金改革法案が提出された。野党各党は一斉に「あんこの入っていないアンパンだ」と批判している。言い得て妙だが、個人的にはそんなにいいものではないと思っている。これは飲食店の陳列棚に並んでいる本物そっくりのフェイクサンプルといった方がいいだろう。こんなことを言っても誰も耳を貸してくれない。日本が嵌まった落とし穴なのだが、やけにアンパンが受けている。NHKの朝ドラのせいか。10年後ぐらいにはじまる就職氷河期世代の年金受給開始を意識した「基礎年金の底上げ」が入れば、このアンパンは美味しくなるのか。その意義は認めないわけではないが、日本の年金制度には根本的な欠陥があると言いたいのだ。あんこが入っても美味しくならないアンパン。ここが最大の問題なのだが、与野党含めて政治家も官僚も専門家、メディアも誰一人そんなことを考えていない。

日本の年金制度は賦課方式といって現役世代が支払った保険料を、高齢者が受給する仕組みになっている。この制度の最大の問題点は、少子高齢化に伴って現役世代が減少して受給者が増えることだ。一人の高齢者を支える現役が10人いれば、経済社会が多少変動しても余裕を持って高齢者を支え続けられる。ところが肝心の支える世代が5人、4人、3人と減り、最終的には1人なる。そんな将来が現実味を帯びはじめているのだ。移民の受け入れなど積極的に現役世代を増やさない限り、この制度が破綻するのは目に見えている。そこで政府や官僚、学者など年金専門家が捻り出した対策が「マクロ経済スライド」という弥縫策だ。2004年の年金改革で導入された。従来の物価スライドの代わりに年金受給者の減少率、経済成長率、平均寿命の伸び率などを勘案して、年金の支給額をマイルドに調整する方式だ。

この方式はデフレ時代には年金の支給額が下がりづらいというメリットがあったが、インフレになると逆に物価の上昇率に追いつかなくなる。デフレ時代に考案されたもので、破綻が目に見えている賦課方式の延命を図ったものだ。あれから10年。今回の改革案も、さまざまな項目が盛り込まれているが弥縫策の域を出ていない。それ以上に参院選を控えた自民党のせこい魂胆で、基礎年金の引き上げ策すら盛り込まれなかった。問うべきは少子高齢化を叫びながら、いつまでも賦課方式を維持するための弥縫策でいいのか、そこだろう。これはアンパンのあんこの問題ではない。政治家も官僚も学識経験者もオールドメディアも本質から目を逸らし、重箱の隅をつつき合っている。為政者はみな盲目的な弥縫策集団に堕ち込んだのだ。これが八方塞がりから抜け出せない日本の“落とし穴”だ。