▽【米国市況】財政不安で国債安、株に売り波及-ドルも143円台に下落https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-21/SWMGIADWX2PS00?srnd=cojp-v2

Rita Nazareth

  • 20年債入札不調で利回り急伸、財政法案巡る政府と議会の攻防も重し
  • ドルは143円29銭まで下落-為替市場はG7での2国間協議に注目

21日の米金融市場では、膨張する米財政赤字が安全な投資先としての米国の地位を脅かすとの懸念が表面化。20年債入札(160億ドル相当)では需要が振るわず、米国債相場は軒並み下落。売りは株式、ドルに波及しトリプル安となった。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り5.08%11.02.21%
米10年債利回り4.59%10.62.35%
米2年債利回り4.02%4.71.18%
  米東部時間16時43分

  20年債入札の最高落札利回りは5%を上回った。ブック・リポートの著者、ピーター・ブックバー氏は「普段は20年債入札については書かない。流動性は低く、参加者も少ない。遊び場でひとりぼっちになった迷子のようなものだ」と語る。「しかし米国債市場が再び神経質な展開になったので、きょうはコメントしておく。入札は不調だった。その反応で国債利回りは軒並み上昇し、この日の高水準に達した」と述べた。

Traders At The New York Stock Exchange As Stocks Bounce From Lows
ニューヨーク証券取引所Photographer: Michael Nagle/Bloomberg

  トランプ大統領が推進する大型の税制・歳出法案は、争点の一つだった州・地方税(SALT)控除上限の問題が解消された一方、保守強硬派が法案成立を阻止する構えを見せており、先行き不透明感が強まっている。

  RBCグローバル・アセット・マネジメントのブルーベイ米債券チーム責任者、アンドレイ・スキバ氏は「これだけ供給が大規模だと、タームプレミアムが上昇しないと買い手は参入する気になれない」と指摘。「それに財政赤字見通しがはっきりするまで、こうした圧力が弱まる可能性は低い」と続けた。

  ジム・リード氏らドイツ銀行のストラテジストは「24時間前から、投資家の頭は米財政問題でいっぱいになっている。長期的に持続不可能な米債務が短期的に何を意味するのか、引き続き考えを巡らせている」と述べた。

  債券投資家は概して、期間の長い国債にはそれだけ高い利回りを要求しており、それは米国債に限った話ではない。日本と英国の30年債利回りも今週、上昇している。

  ドイツ銀行の外国為替調査責任者ジョージ・サラベロス氏は、最近の市場で米国債利回りと円相場とのかい離が見られると指摘。これが「米財政リスクの拡大を示す最も重要な指標」だと述べ、慎重な外国人投資家が米国債から資金を引き揚げている兆候だとリポートで説明した。

  ブルームバーグの米金利・外為ストラテジスト、アリス・アンドレス氏は「21日の債券市場には強気材料がほとんどない。財政赤字を拡大する支出計画への不安と供給への懸念が価格変動にはっきりと表れており、30年債利回りは今後も上昇を続ける可能性がある」と述べた。

株式

  株式市場では主要指数が軒並み下落。20年債入札の不調をきっかけに米国債利回りの上昇と消費者センチメントの悪化があらためて懸念された。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数5844.61-95.85-1.61%
ダウ工業株30種平均41860.44-816.80-1.91%
ナスダック総合指数18872.64-270.07-1.41%

  株式相場は大型ハイテク株の堅調で持ちこたえていたが、20年債入札後に国債利回りが心理的に重要な水準を突破。「恐怖指数」として知られるCBOEボラティリティー指数(VIX)も、一時20を上回る場面があった。

  ジョーンズトレーディングのチーフ・マーケット・ストラテジスト、マイケル・オルーク氏は「30年債利回りは2007年以来の高水準まで10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)未満に迫った」と指摘。「世界で最も安全な資産がこれほど不調なら、株式は調整局面を迎えてしかるべきだ」と述べた。

  BTIGのジョナサン・クリンスキー氏も、米国債がようやく株式投資家の目を引いたと指摘した。

  ミラー・タバクのマット・メイリー氏は「10年債利回りが4.5%を有意に上回っていることは、長期利回りに重要な変化が起きたことを裏付ける」と話す。「これらの高利回りでは、(株式相場の)非常に高いバリュエーションを正当化するのが極めて難しくなる。従って株式には新たな向かい風が吹くことになろう」と述べた。

  グーグルの親会社アルファベットは2.8%上昇。前日の人工知能(AI)イベントを受けた買いが入り、一時は5%余り上げる場面もあった。

  その他の個別企業ニュースでは、ターゲットが売上高見通しを下方修正した。買い控えと関税の打撃、ボイコットや消費者信頼感の低下が響いた。

  百度(バイドゥ)の1-3月(第1四半期)決算は、売上高が市場予想を上回った。人工知能(AI)分野での競争激化と長引く景気低迷を乗り越えた。

  JPモルガン・チェースは顧客に地政学的リスクに関する助言を提供する専門部署「地政学センター」を新設し、ロシア・ウクライナ情勢、中東、世界的な軍拡に関する調査リポートを公開した。

  トヨタ自動車は米国で小型ピックアップトラックの投入を検討している。成長を続けるエントリーレベルのトラック市場で米フォード・モーターや韓国の現代自動車と競合する可能性がある。

外為

  ドルは軟調。20年債入札の不調を受けて米国債利回りが上昇したものの、ドル相場を浮揚させるには至らなかった。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1218.84-3.87-0.32%
ドル/円¥143.66-¥0.85-0.59%
ユーロ/ドル$1.1330$0.00470.42%
  米東部時間16時43分

  ブルームバーグ・ドル指数はこれで3日続落。ドイツ銀行のジョージ・サラベロス氏は「マーケットは米国債入札の不調に対し、非常にネガティブに反応した」と指摘。「中でもやっかいなのは、ドルが同時に下げていることだ」と述べた。

  「問題の核心は、この価格水準ではもはや米国の双子の赤字を引き受けることはできないと、外国人投資家が考えるようになったことだ」と続けた。

  対円でドルは143円29銭まで下落。加藤勝信財務相が訪問先のカナダでベッセント米財務長官と会談したと、共同通信は報じた。加藤財務相は為替など諸課題について議論する考えを示していた。

原油

  原油相場は続落。イスラエルがイランの核施設を攻撃する準備を整えている可能性があるとするCNNの報道よりも、米原油在庫が2週連続で増加したことが大きく材料視された。

  米エネルギー情報局(EIA)の発表によると、原油在庫は昨年7月以来の高水準となった。ガソリン需要も減少した。

  原油相場はこのところ、イランと米国の核協議の行方に関するさまざまな報道を受けて不安定な展開が続いている。協議が進展すれば、年後半に供給過剰が予想される市場にさらに原油が戻ってくる可能性がある。一方でイスラエルによる攻撃があれば、協議の進展が妨げられ、中東の不安定化が増す恐れがある。同地域は世界の原油供給のおよそ3分の1を占める。

  CNNによると、イスラエル指導部が攻撃の実行を最終決定したかどうかは不明。複数の匿名の米当局者を引用した。

Oil Pares Earlier Spike That Was Driven By Report on Iran | CNN report wasn't clear that Israeli leaders have made a final decision
ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物出所:NYMEX

  SEBのコモディティー担当チーフアナリスト、ビヤルネ・シールドロップ氏は「攻撃があった場合の原油相場への影響が小さいとみられているか、あるいは攻撃が起こる可能性自体が低いとみられているか、どちらかだ」と指摘。アジア時間での相場上昇については、「中東の主要産油地域で爆撃がある可能性が浮上しているに割には、それほど大きくない」と話した。

  ゴールドマン・サックス・グループのグローバルコモディティー調査共同責任者、サマンサ・ダート氏は「イランは過去数年にわたって、供給を日量約100万バレル増やしてきた」とブルームバーグテレビジョンで指摘。「日量100万バレルに上るイランの供給が市場から取り除かれれば、原油価格はバレル当たり約8ドル上昇する可能性がある」と述べた。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物7月限は、前日比46セント(0.7%)安の1バレル=61.57ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント7月限は0.7%下落し64.91ドル。

  金相場は3営業日続伸。米財政政策が意識されたほか、中東での新たな紛争を巡る懸念も金の追い風になった。金スポットは過去2営業日に2.5%余り値上がりし、1オンス=3310ドルを突破した。

  米国の財政状況は不安定さを増している。債務の増大と利払い費の上昇が続く中、政府が財政健全化に向けた対策を講じなければ借り入れコストはさらに上昇し、財政赤字の削減が一段と困難になる可能性がある。

  エンベストネットの投資ソリューション戦略担当プリンシパルディレクター、ブルックス・フリードリッヒ氏は、トランプ氏の関税政策から米財政の健全性に至るさまざまな不確実性を踏まえると、当面は「金への緩やかで着実な資金流入と配分が続くだろう」とインタビューで述べた。

  金スポット価格はニューヨーク時間午後2時現在、前日比26.28ドル(0.8%)高の1オンス=3316.41ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物8月限は、29.30ドル(0.9%)高の3341.90ドルで引けた。

原題:Stocks Get Hit as Weak Treasury Sale Boosts Yields: Markets Wrap(抜粋)

原題:Dollar Weakens as All Eyes on US Deficit Spending: Inside G-10(抜粋)

原題:Oil Slips as US Stockpile Gain Overshadows Iran Strike Report(抜粋)

原題:Gold Rises for Third Day on US Fiscal Outlook, Mideast Concerns(抜粋)