▽日鉄株が大幅高、USスチール買収巡るトランプ氏の曖昧な「承認」でも
Clara Ferreira Marques、稲島剛史
- トランプ氏はなお、これは投資であり部分的な所有だとの考え示す
- 日鉄には借入金増加に加え増資の可能性が高まる-アナリスト
週明けの東京市場で、日本製鉄の株価が急伸し、一時前営業日比7.4%高の3081円を付けた。トランプ米大統領が同社とUSスチールとの提携を発表したことを受けた動きだが、同氏の曖昧な「承認」には疑問の声も出ている。
1年5カ月以上にわたるロビー活動と激しい交渉後、日鉄は23日にトランプ氏の承認を受けて同業USスチール支配権を手に入れることができたかのように見えた。ただ、それから数日経過した今も、投資家や経営陣、外交関係者らは、トランプ氏が何を承認したのか、はっきりとは把握できていない。
トランプ氏は日米鉄鋼大手による「計画的なパートナーシップ(提携)」を評価。それによって「少なくとも7万人」の雇用が創出されると主張した。これはUSスチールの現在の米従業員数の約5倍に相当し、米経済に140億ドル(約2兆円)の効果をもたらすとも述べた。
だが、この予想外の発表には日鉄による総額141億ドルのUSスチール買収計画を明確に支持する言葉は見られなかった。その代わり、トランプ氏はUSスチールが「米企業にとどまる」と言及するにとどめた。
トランプ氏は25日も明確な説明をほとんどしなかった。 「米国によってコントロールされることになる。そうでなければ自分はこの取引を認めない」と、トランプ氏はニュージャージー州モリスタウン空港で記者団に語った。「これは投資であり、部分的な所有だが、米国によってコントロールされることになる」と話した。
一連の動きを背景に、SMBC日興証券のアナリスト、山口敦氏らはリポートで、詳細が判明しないと現段階では評価が難しいとした上で、報道された追加投資を加えると今回の案件は割高と評価される可能性があるとの見方を示した。USスチールへの投資のために借入金増加に加え増資の可能性が高まるとも述べ、「早期に投資からのリターンを株式市場に示す必要があるだろう」とした。
こうした曖昧さに直面した日鉄とUSスチールは「パートナーシップ」や「大胆な」決断を称賛するコメントを出したが、買収計画に関する具体的な言及や説明はなかった。それにもかかわらず、USスチール株は23日、一時26%値上がり。21%余り上昇して取引を終了した。買収を巡る投資家の楽観的な見方が再び強まったことを示唆している。
買収の可否を最終的に決定する立場にあるトランプ氏は、以前から日本によるUSスチールへの投資には賛意を示していたが、完全子会社化には反対の立場を取っていた。昨年12月にはSNSで、「かつて偉大で強力だったUSスチールが外国企業に買われることには断固反対だ」と投稿しており、この点では珍しくバイデン前大統領と足並みをそろえていた。バイデン氏は対米外国投資委員会(CFIUS)の審査を経て、今年1月に買収を阻止していた。
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したがって、完全子会社化が承認されれば、大きな方針転換となる。
一方で、トランプ氏の投稿が出たのは、日米が関税を巡って交渉を進めているタイミングでもあった。赤沢亮正経済再生担当相は先週、ワシントンでラトニック米商務長官とグリア米通商代表部(USTR)代表と会談し、第3回となる関税協議を行った。これに先立ち、トランプ氏は石破茂首相と電話会談を実施していた。
トランプ氏の承認と、日本からの多額の資本流入はかつて世界最大企業だったUSスチールに新時代をもたらす可能性がある。しかし、買収を進めれば、日鉄は老朽化し、効率が低く、コストの高い統合型資産の維持といった制約条件が付く可能性もある投資案件を株主に正当化する必要にも迫られることになる。
原題:Trump Backing for Nippon Steel Deal Comes With Big Questions(抜粋)
