▽焦点:韓国新大統領は政治的分断修復できるか、内外政策でも課題山積

Ju-min ParkHyunsu Yim

[ソウル 4日 ロイター] – 3日に投開票された韓国大統領選は、革新系政党「共に民主党」の李在明前代表が、保守系政党「国民の力」の金文洙前雇用労働相らを破って当選した。李在明氏の勝利をもたらしたのは、昨年12月に尹錫悦前大統領が行った「非常戒厳」宣言に対する有権者の激しい怒りだ。しかし李在明氏の指導力自体は、これから打ち出す政策によって真価を問われることになるだろう。

非常戒厳宣言とその後の状況が韓国にもたらした政治的分断の修復は容易に進みそうにはない。

今回の選挙戦では、李在明氏と金文洙氏の双方ともにあいまいな政策構想しか示していなかった。仁川大学のリー・ユンハン教授は、選挙結果は共に民主党が支持されたというより、尹前大統領と国民の力の行動への糾弾という側面が強いと分析する。

リー氏は、尹前大統領の弾劾に反対した金文洙氏は準備不足で、国民の力は非常戒厳宣言に対する後悔の念を示さなかったとの見方を示した。

その上で「(次期大統領は)国民の選択が一方的で、将来の政策と政権運営(への期待)が織り込まれていると正しく解釈しなければならない。そうしなければ、国民の気持ちはあっという間に変わってしまう」と警告した。

東国大学のキム・ジュンソク教授は、李在明氏は2022年の選挙で尹前大統領に僅差で敗北した後も大統領の座を虎視眈々と狙っていたが、その間には多くの情勢変化があったと指摘。「民主主義の回復」という課題のほかにも、今年の成長率が1%に届かないと見込まれる経済の立て直し、トランプ米大統領との関税交渉など、内外にやるべきことが山積していると述べた。

有権者はこの選挙を通じて、非常戒厳宣言から数カ月にわたって続いた政治と経済の混乱が落ち着いてほしいと希望する半面、具体的な政策論争がなかったことへの不満を訴える声が多い。

米ホワイトハウス、韓国大統領選は「公正」 中国の影響力に懸念

李在明氏は、選挙後すぐに第二次補正予算を編成することと、国内企業や子育て世帯、若者、高齢者を支援する措置を打ち出すと約束。同氏陣営は、トランプ氏に対しては関税交渉期限の延長を求めるとしている。ただトランプ政権がそうした申し出を受け入れるかどうかは定かではない。

韓国内では反中国の世論が高まり、トランプ氏は中国の孤立を進めているだけに、李在明氏としては中国との関係を改善する計画も慎重な対応が必要になる。

実際李在明氏はそうした政治状況を敏感に察し、中国や日本に対する自身の態度を軌道修正し、国内的には政府が国民全員に一定額を定期的に給付する「ユニバーサル・ベーシックインカム」といったポピュリズム(大衆迎合主義)的な政策も提示した。

64歳の零細事業者は「私が望むのは経済の復活と反乱勢力の除去だ。国民を安心させてほしいし、トランプ氏と向き合うのは簡単ではないだろうが、有能な側近を登用してうまく対応してくれればと思う」と語った。

共に民主党は議会で多数派を占める見込みで、尹前政権のような議会と大統領が対立することなく、法案や予算を成立させやすくなるだろう。

ただ仁川大学のリー教授は「李在明氏と共に民主党は絶対的な権力を持ち、社会的連帯という立場からは逸脱する恐れがある。絶対多数という点で、彼らに歯止めをかけるチェック・アンド・バランスがほとんど機能しなくなるように見受けられる」と懸念する。

5月には議会で共に民主党主導の委員会は、李在明氏が違反に問われ、最高裁が無罪判決を破棄した公職選挙法の改正案を可決した。

共に民主党は、大統領に対する刑事捜査の免責条件を明確化する法案の可決も狙っている。李在明氏が抱える他の刑事訴訟を減らすのが目的とみられる。