▽イスラエル防空網、大きな試練に直面-イラン弾道ミサイル波状攻撃で

Paul Wallace、Galit Altstein

  • これまでにイランは計370発の弾道ミサイルを発射、約30発が着弾
  • 死者24人、約600人が負傷-テルアビブ近郊では住宅に甚大な被害

イランが大量の弾道ミサイルを発射するなか、イスラエルが誇る防空システムはかつてない規模の試練に直面している。

  イスラエル国防軍(IDF)によると、イランは13日夜に約200発のミサイルをイスラエルに向けて発射。14日夜にも約70発を発射し、15日と16日も攻撃は続いた。

  イスラエル政府は、今回の軍事衝突でイランから計370発の弾道ミサイルが発射され、そのうち約30発が国内に着弾したと発表。これまでに24人が死亡、約600人が負傷したとしている。

  テルアビブ近郊のリション・レツィヨンやバトヤムなどの都市では、住宅に甚大な被害が確認されている。北部の港湾都市ハイファやテルアビブも激しい攻撃の標的となっている。

  イランは数百機規模の無人機(ドローン)も発射しているが、こちらは比較的容易に迎撃されているという。

  イスラエルのライター駐米大使は15日、ABCの番組で「われわれには優れた防空システムがあるが、空を完全に密閉できるわけではない」と発言。「発射された弾道ミサイルのうち約10-15%が迎撃をすり抜けている」と語った。これは、イスラエル軍があらかじめ想定していた「到達率」の範囲内とされる。

  米国はイランへの攻撃には加わっていないものの、同盟国イスラエルによるミサイル迎撃を支援しており、1回のミサイル波状攻撃への対応で数百万ドル規模の費用が発生している。

  イランによる今回の攻撃は、昨年4月および10月に同国がイスラエルに向けてミサイルや無人機を発射した際と比べ、はるかに致命的かつ被害が大きいものとなっている。当時、イランの攻撃は主に軍事施設や情報機関の拠点に集中していた。今回は発射されるミサイルの数が大幅に増加し、民間地域への攻撃も目立つ。

  イスラエルはこれまでにも、パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスやレバノンのヒズボラなど、イランが支援する武装勢力からのミサイルや無人機による激しい攻撃を受けてきた。ただ、これらの勢力はイランが保有するような高度な弾道ミサイルは持たない。イランの弾道ミサイルは極めて高速で飛行し、大型の弾頭を搭載できるほか、一部は空中で進路を変更する能力を持つ。飛行の中間段階を大気圏外で行うため、迎撃は技術的に難しいとされる。

  イエメンのフーシ派もこうしたミサイルをイスラエルに向けて発射していたが、通常は一度に1発程度にとどまっている。

  イスラエルのネタニヤフ首相は15日、今後数日にイランからさらなる攻撃がある可能性があると国民に警告。空襲警報や携帯電話による通知を受け取った際には直ちに防空壕へ避難するよう呼びかけた。

Israeli air defense systems intercept Iranian missiles over Tel Aviv on June 16.
テルアビブ上空でイランのミサイルを迎撃するイスラエルの防空システム(16日)Photographer: Jalaa Marey/AFP/Getty Images

  イランによるミサイル発射の阻止は、IDFにとって最優先課題となっている。IDFは13日以降、発射拠点への攻撃を試みており、関係当局者によれば、これまでに全体の約3分の1にあたる約120カ所を破壊したという。

  ネタニヤフ氏は、イスラエルは「国家の存亡をかけた戦い」の中にあるとし、イランの核開発計画を数年、あるいは永続的に後退させることを目的としていると述べた。一方でイランの最高指導者ハメネイ師は、イスラエルが「極めて高い代償を支払うことになる」と警告。イラン政府によれば、これまでに同国の軍幹部や核科学者を含む224人がイスラエルの攻撃で死亡した。

  イスラエルのハネグビ国家安全保障顧問は16日、イランが依然としてイスラエルに到達可能なミサイルを数千発保有していると軍ラジオで述べた。これは過去数週間に複数のイスラエル当局者が言及してきた2000発という見積もりを上回る水準となる。いずれにせよ、イランは今後数日、場合によっては数週間にわたりミサイル攻撃を継続できる能力を保持しているとみられる。

  迎撃成功率が90%だとしても、イスラエル国民にとって日常生活が維持されているわけではない。今週中は学校が閉鎖され、13日の空域閉鎖以降、10万人以上が国外で足止めされている。

  迎撃には莫大な費用がかかる。イスラエルが弾道弾の迎撃に用いる「アロー」ミサイルは1発あたりのコストが約200万-300万ドル(約2億9000万-4億3000万円)に上る。命中精度を高めるため、1発の弾道ミサイルに対して複数の迎撃ミサイルを発射することも珍しくない。

  昨年4月には、イランのイスラエル攻撃を阻止するために米英仏やヨルダンが協力。わずか数時間の防衛作戦に約11億ドルのコストがかかったとされる。

  今回の衝突は、それよりもはるかに長期化しており、現時点で沈静化の兆しは見えていない。

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原題:Israel’s Vaunted Air Shield Tested as Iran Rains Down Missiles(抜粋)