コメの価格高騰の背景として、国の統計の信頼性を問う声がある中、農林水産省は、毎年のコメの作柄を示す「作況指数」を廃止すると発表しました。コメの収穫量に関する調査は継続しますが、人工衛星やAIなども活用したうえで精度を高めていくとしています。
農林水産省は、去年収穫されたコメについて作柄を示す「作況指数」は「平年並み」で収穫量は前の年より18万トンあまり多い679万トンと発表していましたが、一部の農家などからは「実際にはそれほど収穫できておらず、供給量の不足が価格高騰につながっているのではないか」といった声が上がっていました。

これについて小泉農林水産大臣は16日午後、記者団に対し、およそ70年続いてきた作況指数については、農家の実感と異なることから廃止し、コメの収穫量の調査については、より精度の高い統計の作成に取り組んでいく考えを示しました。
具体的には、サンプル調査で使うふるいの目の大きさを農家の実態にあわせてより大きくし、主食用のコメとして選別する基準をより厳しくするほか、人工衛星やAI、それに収穫量の測定が可能なコンバインから得られるデータの活用も検討していくとしています。
農林水産省は、今後、さらに詳細な検討を進めるとともに、生産者など関係者にも統計の変更について丁寧な説明を行い、理解を得ていきたいとしています。
「作況指数」とは? “実感と異なる”という声も

コメの収穫量について農林水産省は、毎年無作為に抽出した全国およそ8000の水田のサンプル調査から、導き出しています。
実際に稲を刈り取り、ふるいにかけるなどして、主食用として供給される可能性のある玄米の総量を調べたうえで、その年のコメの10アールあたりの平均収穫量を把握しています。
都道府県ごとに10アールあたりの平均の収穫量を把握し、平年と比較して指数化したものが「作況指数」で、その年のコメの作柄を示す指標として使われています。
平年を100とした指数で、
▽「不良」が94以下
▽「やや不良」が95から98
▽「平年並み」が99から101
▽「やや良」が102から105
▽「良」が106以上
となっています。
令和6年産のコメについて農林水産省は、全国の作況指数は101で「平年並み」と発表していました。

一方、全国のコメの収穫量は、全国の10アールあたりの平均収穫量に全国の作付面積をかけて算出していて、去年の主食用の収穫量は、前年より18万トンあまり多い679万トンとしていました。
しかし一部の農家や卸売業者などから「実感とは異なっていて、実際にはそれほど収穫量は多くなく、コメの供給量不足が価格高騰につながっているのではないか」といった声も上がっていました。
小泉大臣は15日、福島県でコメの生産者などと意見交換をしたあと、記者団に対し、「農家が農林水産省が出しているデータと実感が違うとはっきり話をしたことを、正面から受け止めなければならない」などと述べ、16日にも、作況指数などの見直しの方向性を示す考えを明らかにしていました。
コメの卸売会社 “取引価格が急激に下がっている”

コメの卸売会社の担当者は、随意契約の備蓄米が放出されたあと、取引価格が急激に下がっていることを実感しています。
福岡県広川町にある「カネガエ」の米穀部門長、森島一紗さん(44)は、「コメの取引価格は5月ぐらいがピークで、随意契約の備蓄米が出てからは毎日のように下がっている」と話します。
森島さんによりますと、卸売会社どうしで比較的少量のコメを融通し合う「スポット取引」の価格は、関東でとれた令和6年産のコシヒカリ60キロあたりで先月が4万8000円から9000円だったのに対し、最近は3万5000円台にまで下落しているということです。
随意契約の備蓄米の放出を受け、令和6年産のコメが余るとみた卸売会社が「今のうちに売っておこう」と判断していると言います。
こうした中、森島さんの会社では、コメの取引価格が今後さらに下がる可能性があるとして、スポット取引での購入を見合わせるようになりました。
卸売各社がことしの新米の価格を注視しているということで、「7月の終わりには宮崎県産のコシヒカリが出始めるが、みなさん、古米より新米のほうが安くなる“逆転”を気にしている。様子見状態だと思う」と話していました。
森島さんによりますと、随意契約の備蓄米を扱っていない小売店からは今も銘柄米の注文が寄せられていて、需要は引き続き強いということです。
このため、コメ5キロの小売価格は、仕入れ値の高い令和6年産が4000円台、競争入札の備蓄米が3500円前後、それに随意契約の備蓄米が2000円程度の3つに分かれているということです。
森島さんは「ここ1、2週間で状況ががらっと変わった。ほかの卸売会社がいくらの値段で出すかでどんどん値下げになるのもちょっと怖いところがある。その場その場でベストな判断をしてやっていくしかない」と話していました。
入札で売り渡された備蓄米 値下げして販売

随意契約の備蓄米の流通が進む中、埼玉県内にあるJAの直売所では、競争入札で売り渡された備蓄米を、今月上旬から値下げして販売しています。
東松山市にあるJA埼玉中央の直売所では、競争入札で売り渡された備蓄米を4月から5キロあたり税込み3600円で販売してきましたが、今月4日から200円値下げし、5キロあたり税込み3400円で販売しています。
周辺の小売店で銘柄米などを値下げする動きが見られたことや、価格が安い随意契約の備蓄米の流通が各地で進んでいることを踏まえ、値下げを決めたということです。
また競争入札で売り渡された備蓄米の入荷量が増えていることから、これまで1家族あたり10キロとしていた購入制限も、なくしたということです。
今後については周辺の小売店などの状況に応じて販売の際の価格や制限をどうするか、対応を検討していきたいとしています。
備蓄米を2袋購入した30代の男性は「子どもが3人いるので、値下げはすごく助かります。コメが売っていなければ探し回るのは大変なので、これからも定期的に手に入ればいいなと思います」と話していました。
東松山農産物直売所の坂本勝行所長は「随意契約の備蓄米の話が出て以降、客足が少し鈍くなった。引き続き、価格動向の調査を行って、消費者のニーズに合った価格設定をしていきたいです」と話していました。
中小スーパー 売り上げが落ち込むところも

備蓄米を仕入れることができず、銘柄米とブレンド米だけを販売している中小スーパーの中には、コメの売り上げが落ち込んでいるところもあります。
横浜市にあるスーパーでは、随意契約による備蓄米の購入を検討していましたが、年間の取り扱い量が政府の申請条件を満たしておらず、申請を断念したということです。
また仕入れ先の問屋からは、競争入札による備蓄米も手に入らないと伝えられています。
このため、現在店頭で販売しているのは、銘柄米とさまざまな品種や産地を混ぜたブレンド米だけで、価格はすべて5キロあたり税込み5000円を超えているということです。
こうした中、今月に入ってから16日までのコメの売り上げは、先月の同期間に比べて、約15%減っているということです。
ただこれらのコメは高い価格で仕入れているため、店頭価格を引き下げることは難しく、現在は在庫が増えすぎないよう、精米から一定の期間が過ぎた商品に限って割り引きして販売しているということです。
コメを買いに訪れた客は「やはり高くて手が出ない。タイ米を使ったり麦を混ぜたり日頃の料理は工夫しています。備蓄米があれば買ってみたいです」と話していました。
「スーパーセルシオ和田町店」で食品バイヤーを務める久保田浩二さんは、「このところコメが売れ残る状況が出てきていて、利益を失ってでも販売せざるをえない状況です。仕入れ価格の値下がりを期待しています」と話していました。
