▽ロシア銀行業界がシステム的な危機を懸念、1年以内にも発生-当局者
- 不良債権増加が業界内で話題に、現・元当局者は危険な状況と指摘
- 経済見通しの悪化は深刻、当局者も公に示唆-戦争継続能力に疑問
ロシア経済の見通しは公に認められているよりも悪化が深刻で、向こう1年間にシステム的な銀行危機が発生する確かなリスクがあると、同国の銀行当局者が明らかにした。
当局者の証言やブルームバーグ・ニュースが確認した文書によれば、ロシアの銀行はそれぞれが抱える不良債権の水準にますます懸念を強めている。高金利に苦しみ、融資の返済が滞るようになった法人や個人の顧客の数について、各行は内々に警鐘を鳴らしていると当局者は語った。

ロシアの現・元銀行当局者は同国の状況を危険だと内々に話し、状況が改善しなければ、来年には債務危機が金融セクターに広がるリスクが膨らんでいると指摘した。金融業界の不安を公に話す権限がないとして、当局者らはいずれも匿名を要請した。
銀行システムのきしみは、既に4年目に入ったウクライナ侵攻をプーチン大統領が継続する能力への疑問を強めそうだ。米国や欧州などウクライナ支援国はロシアの金融セクターを制裁強化の標的とし、欧州連合(EU)は現在、ロシアの銀行に対して一段と対象を拡大した新たな制裁を協議中だ。
ウクライナの支援国はまた、トランプ米大統領に対ロシア制裁の大幅な強化を求めている。プーチン氏が停戦の呼び掛けに応じないためだが、トランプ氏は今のところ制裁強化を控えている。

一部の現・元当局者によると、公式統計は債務危機の本当の深刻さを覆い隠している可能性がある。ある大手銀行は内部報告で、支払い遅延に関する公式データに深刻な問題はまだ表れていないが、借り手は返済を延ばし、現実的には期日通り返済されていない融資がさらに増えていると指摘。この報告書をブルームバーグは確認した。
銀行の内部分析に詳しい関係者によると、複数の銀行は不良債権が数兆ルーブル規模に達しているとみており、リスク管理の措置を講じ始めた。リスクは増大し、信用収縮の初期的な兆しが見られているという。ある推計では、今年最初の2カ月でロシアの銀行が抱える法人向け貸出残高は1兆5000億ルーブル(約2兆7600億円)減少し、その後安定したとされる。
緊張が表面化
サンクトペテルブルクで先週開かれた国際経済フォーラムでは、ロシア経済のリスクを巡る政権幹部の緊張が表面化した。

パネル討論で、ロシア経済は必要な減速を経験しつつあると主張するナビウリナ中銀総裁に対し、レシェトニコフ経済発展相は「リセッション(景気後退)に陥る瀬戸際にある」と発言。シルアノフ財務相も「これから厳しい時期に入る」と認めた。
プーチン氏はこの翌日の講演で、「専門家の一部はスタグフレーション、リセッションのリスクすら指摘しているが、いかなる状況下でもそのような事態は許容されるべきではない」と述べ、自身の立場を明確にした。
もっとも、プーチン氏が2022年にウクライナ侵攻に踏み切って以来、米国や主要7カ国(G7)は前例のない厳しい制裁を科してきたが、ロシア経済は持ちこたえている。ロシア政府は防衛産業に巨額の支出を行うとともに制裁対象企業を支援し、制裁に対処してきた。
中銀のデータによると、ロシアの銀行は24年に合計で3兆8000億ルーブルの利益を上げ、過去最高の業績を記録した。
だが、兵士需要で労働力不足は深刻化。これが多くの市民の所得を増やしたが、インフレ加速も後押しし、公式統計でピーク時のインフレ率は10%を超えた。景気の過熱感は鮮明だ。
ロシアはいわゆる「二速経済」に陥り、その問題も膨らむ。軍産複合体が巨額の軍事支出の恩恵を受ける一方で、民間企業の多くは需要後退とコスト上昇、輸出価格の低下に悩む。
銀行は政府の戦争努力を資金面で支えるため有利な条件での融資を提供してきた。だが、資金の回収という問題に直面し、緊張が高まっている。
関係者や文書によると、建設業や鉱工業で減速が特に激しく、軍需産業でも停滞が始まりつつある恐れがある。
不良債権の水準に対する懸念については、既に一部が公に示されている。
ロシア中銀は5月に発表した報告書で「金融セクターのぜい弱性」を警告し、「法人融資における信用リスクとリスクの集中」、個人向け融資の「状況悪化」を挙げた。ロシアの大手企業78社のうち13社前後が返済不能に陥り、この数は前年の2倍に上ると指摘した。

ただ、中銀は「国内銀行セクター全体としては引き続き強じん」だとの見解を示し、個人向け融資の不良債権比率は一方的なクリミア併合後の2014-16年に見られた水準を「大きく下回る」と主張した。
ロシアの格付け会社ACRAも5月、「融資の質の悪化」を報告した。この報告によると、銀行業界全体の資本の約20%は、金利上昇で信用力が著しく低下する恐れのある借り手に関連しているという。
さらに同月には、ロシア大統領府と近い関係を持つシンクタンク、マクロ経済分析・短期予測センターが、2026年4月までにシステム的な銀行危機が発生する「中程度の可能性」があると分析。新規融資の減少と不良債権の一段の増加が続けば、リスクは増すだろうと警告した。
原題:Russian Banks Fear Debt Crisis Is Coming as War Strains Economy(抜粋)
