▽【米国市況】株高にブレーキ、関税発動延期をトランプ氏否定-円下落

Rita Nazareth

  • 関税50%示唆で銅生産業者の株急伸、貿易関連ニュースへの警戒続く
  • 米国債は5日続落、日本の動向に注目-原油は続伸し金は下落

8日の米株式相場は小幅安。過去最高値付近からの一段高とはならなかった。米政府との貿易協議ではまだ交渉の余地があるとの期待が広がる中、トランプ大統領は上乗せ関税が発動される8月1日の期限は延長しないと述べた。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数6225.52-4.46-0.07%
ダウ工業株30種平均44240.76-165.60-0.37%
ナスダック総合指数20418.465.940.03%

  貿易を巡るニュースへの警戒が続く中、S&P500種株価指数はほぼ変わらず。4月の安値からの急上昇にブレーキがかかった。

  トランプ氏が銅に50%の関税を課すと発言したため、銅生産のフリーポート・マクモラン株が上昇。大型株ではテスラが上昇。アマゾン・ドット・コムは「プライムデー」の滑り出しが不調だったことから下落した。

US Stocks Gain As Fed’s Waller Offers Hope On July Rate Cut
ニューヨーク証券取引所出所:ブルームバーグ

  トランプ氏は7日に上乗せ関税の発効を遅らせる大統領令に署名。ウォール街はこの最新の動向を消化する過程にある。

 eToro(イートロ)のブレット・ケンウェル氏は「貿易戦争に関するニュースが再び注目されるようになっているが、だからといって3月下旬や4月上旬の状況が再来するのではなさそうだ」と話す。

  「交渉継続もしくは期限延長を市場が確信していれば、ニュースの影響は引き続き無視されるかもしれない」とし、「状況が本格的に悪化しない限りは、5%や10%の下げは買いの好機だとリテール投資家は見なすはずだ」と述べた。

  一方、貿易を巡る状況が「騒動だけでなく、実際に打撃を与える」ような段階に入り得ると投資家が考えるようになれば、株価が再び下落局面に入る可能性は十分あると指摘した。

  UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのウルリケ・ホフマンブチャディ氏は「関税率は年初水準に比べて依然高くなる公算が大きく、ニュースによるリスクも高いだろうが、年末時点での米国の実効関税率は15%程度と推測される」と指摘。「そうなれば成長への向かい風にはなるものの、リセッション(景気後退)の引き金になるほどではない」と述べた。

  同氏は今後のボラティリティー対策として、米国外の株式保有を段階的に増やすこと、もしくはポートフォリオの多様化を進めることを引き続き推奨した。

  ベッセント米財務長官が来週にも日本を訪問する方向で検討していることがブルームバーグの取材で分かった。19日に予定されている大阪・関西万博の米国ナショナルデーに合わせたものという。トランプ大統領は7日、日本からの輸入品に25%の関税を賦課すると発表した。発効日は8月1日。

  ブラム・カプラン氏らJPモルガン・チェースのストラテジストはリポートで、米株価指数が過去最高値に近く、地政学リスクプレミアムも大方消失している中、8月1日の上乗せ関税発効を控えて投資家はヘッジの再構築を検討するべきだと指摘した。

S&P 500 Remains Near Overbought Zone
S&P500種株価指数の相対力(RS)指数(14日ベース)出所:ブルームバーグ

  ゴールドマン・サックス・グループのストラテジストは、ここ2カ月で2度目となる米国株の見通し引き上げを行った。米連邦公開市場委員会(FOMC)がより早期に利下げするとの見方が背景だ。

  デービッド・コスティン氏率いるチームは、向こう12カ月のS&P500種見通しを6900と、従来の6500から引き上げ、年末時点の目標値も6100から6600に上方修正した。米国債利回り低下や、米主要企業の堅調な業績も株価押し上げの要因になると分析している。

  個別企業のニュースでは、アマゾン・ドット・コムが行う毎年恒例のセール「プライムデー」は、開始後4時間の売上高が前年を14%下回った。さまざまな製品カテゴリーで50のブランドを管理するモメンタム・コマースが分析した。

  英HSBCはウォール街の大手銀行株について「下方リスクは、一般的に株価に織り込まれていない」とリポートで指摘。JPモルガン・チェースとゴールドマン・サックス・グループ、バンク・オブ・アメリカ(BofA)の投資判断を引き下げた。

米国債

  米国債相場は5営業日連続で下落。長期債の需要が世界的に落ち込む中、今週は中・長期債の入札が行われる。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.93%1.10.23%
米10年債利回り4.40%2.40.54%
米2年債利回り3.89%0.00.00%
  米東部時間16時44分

  米国債相場は軒並み下げた。30年債利回りは5%に接近し、6月中旬以来の高水準。需要の弱かった3年債入札の後、10年債利回りはこの日の高水準付近を維持した。9日の10年債、10日の30年債を合わせると今週は合計1190億ドルの中・長期債入札が予定されている。

  予想以上に強かった6月の雇用統計が先週明らかになって以降、投資家の年内利下げ期待が後退。これも利回りを押し上げている。金利スワップ市場は年内、9月の利下げのほか、さらに1回の25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)利下げを織り込んでいる。

  アメリベット・セキュリティーズの米金利トレーディング・戦略責任者、グレゴリー・ファラネロ氏は「米国に拠点を置く弱気なトレーダーが主導権を握っており、彼らがこれ以上弱気にならない理由が見つからない」と指摘。「世界的に長期債は弱い」と述べた。

  日本の国債市場では30年債相場が大きく下落。不安は世界市場に広がり、ドイツ国債利回りを押し上げた。

関連記事:超長期債利回りが一段と上昇、米関税が参院選前の財政拡大懸念強める

US 30-Year Yield Headed Back Toward 5%
米30年債利回り出所:ブルームバーグ

  長期債が軟調になっている背景には、供給拡大の中で従来の買い手が手控えている状況がある。長期債は金利リスクが大きいため投資家層が限られており、流動性の低さによって値動きが激しくなる傾向がある。

  先週は財政見通しを巡る懸念で、英国債が急速に売られる場面があった。今週は日本が注目を集めている。投資家は参院選を控えた歳出拡大の公約を警戒している。日本の30年債利回りは過去最高水準に接近し、その影響は他の市場に波及した。

  ナットアライアンス・セキュリティーズの国際債券責任者アンドルー・ブレナー氏は「世界的に長期債金利がひどいことになっている。ベア・スティープニングばかりだ」と述べた。

  米国債市場ではトランプ大統領が演出する貿易関税ドラマと、米財政政策、米政策金利見通しという、時に矛盾するリスクの組み合わせが見られる。

  UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのマーク・ヘーフェル最高投資責任者(CIO)は「関税を巡る不確実性を理由に企業が雇用を削減すると心配されていたが、これまでのところ、そうなってはいない」と述べた。

外為

  ドル指数はもみ合った末、前日とほぼ変わらない水準となった。トランプ関税の発効延期は米金融政策と市場の不確実性も引き延ばした。

  円は下落し、対ドル146円台半ば近辺。ポンドも下げた。一方、タカ派的な中銀政策がサプライズとなったオーストラリア・ドルは上昇した。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1196.640.130.01%
ドル/円¥146.55¥0.500.34%
ユーロ/ドル$1.1729$0.00200.17%
  米東部時間16時44分

  ドルは対円で一時146円98銭まで上昇。前日は1.1%上げていた。

  ジェフリーズの外為グローバル責任者、ブラッド・ベクテル氏は「円はここ数日、厳しい局面にある。参院選が迫っているほか、生活費の問題が日々報じられている」と指摘した。

  主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は、欧州時間に0.3%下げた後、米国の朝方には0.3%上昇した。

  ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのグローバル市場戦略責任者ウィン・シン氏は「最初に明らかになった関税通知の書簡では、数値が4月に発表されたものとかなり近い」とリポートで指摘。「適用される8月1日まで、不確実な期間が続く」として、「関税率の引き上げはFRBをこれからも一層慎重にさせるだろう」と述べた。

  マッコーリー・グループのティエリー・ウィズマン、ギャレス・ベリー両氏は「関税を巡る不確実性は米政策全般の不確実性につながっており、それが引き続き米国リスクからの分散を図る投資家の動きを促している」と分析。「7日に起きたことはいずれも、2025年関税ストーリーが終わりに近づいていることを意味するものではない」と述べた。

原油

  ニューヨーク原油先物相場は続伸。中東での新たな緊張を受け、買いが続いた。テクニカル要因で値動きが増幅された面もある。

  イエメンの親イラン武装組織フーシ派が商船を新たに攻撃したことが買いを誘い、その後はテクニカル要因で一段高となった。ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は68ドル台で終え、68.51ドル付近にある200日移動平均を超える場面もあった。

  CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「原油価格は短期的な需給要因が堅調なため横ばいを維持している。石油製品の需給逼迫(ひっぱく)が原油需要を支える一方、地政学的なニュースはまちまちだ。紅海でのフーシ派による攻撃の可能性が一定の警戒感を招いている」と述べた。

  イランのアラグチ外相は、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)への寄稿で、「イランは引き続き外交に関心がある」と述べた上で、「さらなる対話に疑問を抱くだけの十分な根拠がある」と警戒感を示した。

  それでも、市場は主として需給動向に注目している。米軍による攻撃を受けたイランがホルムズ海峡を封鎖しなかったため、エネルギーインフラが今後の軍事対立で使用されることはないとの見方が強まった。一方、米国と中国で短期的な需要が堅調を維持しているものの、現物市場では一部で極端に供給が不足している。

Bullish Technical Signals | WTI surpasses its 200 day moving average, providing upward momentum
WTI先物出所:NYMEX

  ソシエテ・ジェネラルはリポートで「OPECプラスの生産引き上げにもかかわらず、原油在庫が依然として低く、夏季の需給バランスは逼迫するはずだ」と指摘した。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物8月限は、前日比40セント(0.6%)上昇し、1バレル=68.33ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント9月限は0.8%高の70.15ドル。

  金相場は下落。米国債利回りとドルが上昇したため、売りが優勢になった。

  MKS・PAMPの金属戦略責任者、ニッキー・シールズ氏は「貴金属を含む商品市場に圧力をかけているのは為替市場と債券市場だ」と指摘した。

  金相場は今年、大幅に上昇し、4月に最高値を更新した。トランプ大統領による通商政策の転換が不確実性を高め、安全資産への需要を後押ししたためだ。中央銀行による金買いにも支えられている。中国人民銀行(中銀)が7日公表したデータによると、先月は金保有が7万トロイオンス増加した。

  INGグループのストラテジスト、エワ・マンティー氏は「経済環境の不確実性が依然として続く中、ドルから他の資産への分散を目指す動きから、中銀は金保有を引き続き増やす可能性が高い」と述べた。

  金スポット価格はニューヨーク時間午後3時11分現在、前日比32.99ドル(1%)安の1オンス=3303.51ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物8月限は25.90ドル(0.8%)安の3316.90ドルで終了した。

原題:Stocks Hit a Wall as Trump’s Remarks Lift Copper: Markets Wrap(抜粋)

原題:Treasuries Extend Drop as Pressures Build Amid Slate of Auctions(抜粋)

原題:Dollar Steady, Aussie Outperforms on RBA Surprise: Inside G-10(抜粋)

原題:Oil Gains as Red Sea Attacks Aids Push Past Key Technical Level(抜粋)

原題:Gold Declines as Market Parses Trump Comments on Tariff Deadline(抜粋)