トランプ関税をめぐってまた石破総理の不規則発言が飛び出した。この総理についてはこれまで何回も批判してきた。その度に「これでおしまい」と密かに決意するのだが、そんな決意も虚しくタイミングよくコラムの材料を提供してくれる。この日、Bloombergのコラムニスト・リーディー氏は「石破氏は、生真面目過ぎたのかもしれない。お世辞や多少の誇張の方が、トランプ氏を相手にするには効果的だった可能性もある」と書いた。個人的にもそう思う。相手は「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも尻込みする)」氏だ。「トランプさんは凄い。新しい世界秩序づくりに日本も全面的に協力します。その代わりに安倍元総理の遺言でもある自由で開かれた太平洋の構築に絶大なるご協力をお願いします。トランプさん抜きではこの構想は実現しません」。お世辞の一つも言えば、状況ははるかに良くなっていたのではないか。

石破氏に比べるとTACO氏の戦術は精緻に計画されていたようにみえる。書簡公表前にトランプ氏は関税での対日批判を強めた。「タフな日本と合意できるかどうかわからない」としながら、「日本は8月1日から30%~35%の関税を払わなければならない」と。ちなみに「タフ」は政治家の間では褒め言葉だ。4月2日の発表に比べ大幅に税率を引き上げると圧力をかけたが、蓋を開けてみれば25%、当初比プラス1%だ。TACO氏は最初から石破氏を“試す”つもりだったのではないか。お世辞の一つも言えば良し、ダメなら25%で決着させる。これが+1%の真意ではないのか。これに対して石破氏は昨日、「なめられてたまるか」と反撃した。+1%の軽いジョークに真っ当な国家論で反論した。関税を当初の10%から50%に引き上げたブラジルをみればわかる。ルナ大統領に政治的な駆け引きを仕掛けているのだ。

石破総理は自らの発言を「いっぱい頼っているのだから言うことを聞きなさいということだとすれば、それは侮ってもらっては困りますということ」と説明した。従属、隷属などと個人的に批判してきたこれまでの日米関係を振り返れば、「よくぞ言った」ということになるのかもしれない。だが、関税交渉の全体的な戦略があまりにもズレている。関税交渉の真の狙いは政治的な駆け引きだ。その先にあるのは中国封じ込めであり、反グローザリズムだ。そこに賛意を示すだけで関税交渉の実態は変わったはずだ。石破氏はいまのところグローバリズムの側に立っているようにみえる。そこが変わらなければ、“子供の使い”が何回訪米しても日本に勝算はないだろう。もう一つ、この総理の威勢のいい発言には裏付けがまったくない。総裁選で主張した持論の「アジア版NATO」は、いつの間にか雲散霧消した。責任を伴わない発言に意味はない。