文春新書から出た「世界秩序が変わるとき」(齋藤ジン著)を週末に読んだ。サブタイトルは「新自由主義からのゲームチェンジ」。帯には「ソロスを大儲けさせた“伝説のコンサル”初の著書」とある。サッチャー・レーガン時代に始まった新自由主義。市場経済にウエイトを置いた経済政策の行き着いた先が、中国一人勝ちのグローバリズムだ。その潮流が変わると著者は読む。世界規模で経済の構造変化が起こっている。この先どうなるか。なんと斎藤氏は「中国が衰退し、日本が復活する」と断定する。一見すると誰でも期待しそうな結論だ。だが、斎藤氏はソロスに受け入れられ、いま米国の財務長官を務めているベッセント氏と対等に渡り合ってきた人物だ。これまで自分の見解を公にしたことはない。高額の契約料をもらって巨大なヘッジファンドの“親玉”と直接情報交換するだけだった。
その斉藤氏が初めて著書を出した。ヘッジファンドの機微に触れる中身ではない。いてみれば近年のマクロ経済の流れを概括した内容だ。マクロの分析からマーケットに影響を与える近未来予測を積み上げる。アベノミクスに先駆けて円安を予言。ソロスを大儲けさせている。少し前に本屋に平積みされていたのを見たが、この時は買うのをやめた。「どうせヘッジファンドの金儲けの材料だろう」とたかを括っていたのだ。その著書を少し前に購入し積読ていた。図書館で借りた本を読み終わって、何気なく読み始めた。そして驚いた。面白いのだ。頷きながら読んだ。もちろんまったく違う見解も盛り込まれたいる。いま書評を書くつもりはない。1点だけ、斉藤氏の見解を紹介したい。「金融危機後の日本の場合、生産年齢人口の伸びがマイナスになっても、それは企業にとって人手不足にはなりませんでした。まず、雇用の維持が社会的要請になった」
「社内に『働かないオジサン』、換言するとゾンビ社員を抱えています。そのコストをオフセットするため、氷河期世代の学生を非正規雇用にすることで全体の労働コストを抑えることにした」。ズバリ問題の本質に切り込む。黒田前日銀総裁が実施した異次元緩和、私個人はゾンビ企業の存続に役立っただけだと批判してきた。斉藤氏はその実態はゾンビ社員だという。米国はゾンビ社員の首を切って残った社員の賃金を引き上げる。一時的な混乱はあるが、この方が企業の復活は早くなる。過去の成功体験に裏打ちされた経営者の「脳内慣性」は、個人より全社員の安寧を選ぶ。斉藤氏は「失われた30年」は日本社会が勝ち取った成果だと皮肉る。その日本が変わり始めている。復活の条件はたとえて言えば、「一時的な混乱」覚悟でゾンビたちの首を切ることだ。だがゾンビ化した自公政権でそんな荒療治はできない。要するにゾンビ化した政治家たちが、日本復活の足を引っ張っているのだ。
