総理の嘘が許されるのは衆議院の解散だけ、これが世間の常識だ。自分の出処進退についてつく嘘は、民主主義を基盤としている国家にあっては許されざる暴挙と言わざるを得ない。というわけで昨日、毎日新聞と読売新聞が出した石破総理退陣の号外を支持する。麻生太郎最高顧問・菅義偉副総裁・岸田文雄前首相の首相経験者3人と会談したあと総理は、「“私の出処進退につきましては、(会談で)一切話は出ておりません。一部にそのような報道がございますが、私はそのような発言をしたことは、一度もございません”、“報道されているような事実は、全くございません”」と、退陣報道を全面否定した。仮にこの発言が事実だとしたら、昨日の会談で退陣のたの字も言わない首相経験者3人の“見識”が疑われる。政治家は頻繁に「嘘をつく」、これが私の中で形成された“常識”。嘘つきは信用されない。自民党が参院選で大敗した最大の原因はここにある。
政治、政党、政治家に必要なのは有権者との信頼関係ではないのか。英語で言えばコンフィデンスだ。今の石破氏並びに自民党に欠落しているのはこれだ。昨日未明に合意されたトランプ関税に関する日米合意にも、嘘に近い不透明な部分がいっぱいある。例えば「5500億ドル(約80兆円)規模のファンド設立構想」。ファンド設立はいいだろう。問題は投資収益に関する部分だ。この構想は自分の発案だと自賛するラトクリフ商務長官が解説する。「(投資が生み出す)利益は米国の納税者に90%、日本側に10%が分配される」と。仮に50億円投資したプロジェクトが1億円の利益を生み出したとする。利益配分は米国側に9000万円、日本側に1000万円となる。逆に1億円の損失を出したらどうなるのか。米国が9000万円を穴埋めしてくれるのだろうか。GHQの占領以来米国の対日姿勢は一貫している。「生かさず、殺さず」だ。
このほかにもある。ロイターによると今回の交渉で日本は米国に以下のような約束をしている。①米国産コメの輸入を即時に75%増やす②米国産のトウモロコシ、大豆、肥料、バイオエタノール、航空燃料などを含む80億ドル相当の物品を輸入する③大手ボーイング製の航空機100機を購入する④米企業との防衛費を年間170億ドル(現行140億ドル)に増額する⑤医薬品や半導体への関税率については別途交渉するーなどだ。問題はいろいろあるが、たとえば防衛費の30億ドル増額。1ドル=146円で計算すると4380億円になる。予算的には新たな負担増だ。財源はどうする。80兆円ファンドに政府はいくら出資するのか、あらゆる分野の細目は不明だ。だから選挙前に公表できなかったのだろう。そして過半数割れ後の総理続投の“口実”に使う。石破総理と自民党、参院選を見るまでもなくすでに詰んでいる。
