日本とE Uがまったく同じ枠組でトランプ関税に合意した。ある意味で「屈辱的」な内容である。この合意を取りまとめた石破総理は昨日、自民党の両院議員懇談会に出席、参院選敗北の責任を謝罪する一方で、日米合意を着実に実行するため続投する意向を改めて強調した。「弱い」総理の強引な続投宣言。気が滅入る。西側世界の潮流ともいうべきグローバリズムに、終止符がつたれつつある中で起こった関税問題。日本とEUはトランプ大統領の「力」の前にひれ伏したのである。それを象徴するのが石破総理の得意な「投資」だ。日本は5500億ドル(約80兆円)、EUは6000億ドル(約88兆円)を米国に投資するのだそうだ。投資期間も決まっておらず、詳細は不明な点が多い。とはいえ一つだけ言えるのは、今回の結果がトランプ氏との「力の差」を反映していることだ。

国際社会は自由主義から新自由主義へと変遷してきた。新自由主義は別名グローバリズムだ。格差が拡大し各国で経済の空洞化が進んだ。必然的に「取り残される人々」が発生する。いいわゆるラストベルト(Rust Belt、錆びついた地帯)だ。トランプ氏はこの人々を味方につけ、関税賦課を掲げて再選を果たしている。トランプ氏の力の源泉は有権者の「信任」(confidence)にある。民主党政権で不満を抱いていた人々の信頼を勝ち取ったのだ。軍事力に経済力、これに国民の力をえ得て新しい潮流を作り始めている。この時代を名付ければ「Power Politic」、「力の時代」の始まりとでもいえばいいのだろうか。軍事力ではない。経済力に他国を圧倒する力。威圧力でもいいし、圧力外交でもいい。要するに「力」を誇示したディール外交のはじまりだ。前提条件は圧力。交渉担当者が敵わないと感じる「相手を圧する力」だ。これを支えるのは国民の「信任」だろう。

石破総理に国民の「信任」はあるか。ない。比較第1党の自民党は「信任」されているのか。されていない。ここに両院議員懇談会の虚しさがある。ちょっと前、自民党の有力議5人が「自民党は下野すべき」と提言した。おそらく、これが党としての正しい道だろう。仮に下野したとしても、後継政権に「Power Politic」に対抗できる素地はあるか。答え、まったくない。ただ、日本には潜在的なパワーがある。それを生かそうとする政治家、官僚、学者、メディアがない。強いていえば多少の兆しはある。国民民主党、参政党など野党の一部に、経済力強化の政策が芽生えはじめていることだ。トランプ氏は革命的ともいうべき新たな潮流づくりに挑戦している。後継政権は国際社会の変化にすぐに適応できないかもしれない。それでも日本の唯一の力である経済力の再興に気づいている。エプスタイン問題で「信任」に傷が付きそうなトランプ氏。日本にもまだ戦う余地が少しだけ残っている。