▽トランプ氏、対インド関税「大幅」引き上げへ-ロシア産原油購入で<bloomberg日本語版>2025年8月5日 0:57 JST
Jennifer A Dlouhy
- インドはロシア原油を大量購入して公開市場で売却、巨利を得ている
- インド政府、「標的になるのは不当」-購入停止の指示ないと関係者
トランプ米大統領はインドがロシア産原油を購入していると指摘し、インドに対する関税を「大幅に引き上げる」と述べた。主要な貿易相手国に対する強硬姿勢を一段と強める格好となった。
トランプ氏は4日、「インドはロシアの原油を大量に購入しているだけでなく、その多くを公開市場で売却し、大きな利益を得ている」と自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿。「ロシアの軍事力によってウクライナでどれほど多くの人が殺されているか、彼らは気にしていない。これを理由に、私はインドが米国に支払う関税を大幅に引き上げるつもりだ」と続けた。
トランプ氏は関税をどの程度引き上げるのかについては明記しなかった。先週にはインドからの輸出品に25%の関税を課す方針を発表し、インド政府に衝撃を与えていた。両国は数カ月にわたる交渉後も打開策を見いだせなかった。トランプ氏はインドがロシアからの原油購入を続ける限り、追加関税も辞さない構えを示した。

トランプ氏は今月8日までにウクライナとの停戦に合意するようロシアに迫り、さもなくばロシア産のエネルギーを購入する国に2次制裁を科す意向を示している。こうしたエネルギーの購入がロシアの戦時経済を助け、戦争を終わらせるためロシアにかけている圧力を弱めていると、米国などのウクライナ支援国はみている。
ウクライナでの戦争終結に向けたトランプ氏の取り組みで、やり玉に挙げられたのがインドだった。過去にはトランプ氏と友好的な関係を築いていたインドのモディ首相は米国の圧力に反発し、国産品の購入を国民に呼び掛ける一方、ロシア産原油の購入継続を示唆した。
関連記事:インド首相、国民に国産品の購入呼びかけ-米国の25%関税表明後
取り扱いに注意を要する問題だとして匿名を要請した関係者がブルームバーグに語ったところによると、インド政府は国内の製油業者にロシア産原油の購入停止の指示を出しておらず、購入を停止するかどうかの決定は下していない。
インド外務省は4日、ウェブサイトに声明を掲載し、「インドが標的にされるのは不当で、合理性も欠く」と反論。
「インドは国益と経済の安全保障を守るため、あらゆる措置を講じる」とした上で、インドの石油輸入は国内の消費者に安価なエネルギーを確保する目的で、「世界市場の情勢によってやむなく必要となっている」と説明した。
さらに、米国と欧州連合(EU)はウクライナでの戦争が始まって以来、ロシアから石油を買っているとしてインドを責め立てているが、両地域ともロシアからの製品輸入を続けていると主張した。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻開始以降、インドは割安なロシア産原油の大口の買い手に変ぼうした。ブルームバーグがまとめたタンカー追跡データによると、インドは今年、平均で日量約170万バレルのペースでロシア産原油を買い入れている。
また、市場情報を手がけるケプラーのデータをブルームバーグがまとめたところによれば、インドは今年1-6月(上期)に日量およそ140万バレルの精製燃料を輸出していた。このうち約4割をディーゼルと軽油が、3割をガソリンと混合油が占めた。
ただ、インドが輸出する燃料にどれほどロシア産原油が使われているか、具体的な数値化は困難だ。一般的に製油業者は大量の原油を消費し、いっそう多岐にわたる燃料を輸出する。
EUは直近の制裁パッケージで、ロシア産原油でつくられた燃料の購入を禁じたが、この措置が実際どのように執行されるのか、詳細な説明をトレーダーはなお待っている。
原題:Trump Says US to Hike India’s Tariffs Over Russian Oil Buys (2)(抜粋)
India Says Targeting of Country Over Russian Oil Is Unjustified(抜粋)
▽スイス、対米通商交渉「より魅力的な提案の用意」-対抗措置検討せず<bloomberg日本語版>2025年8月4日 21:55 JST
Bastian Benrath-Wright
- スイス政府、米国の関税39%を巡り緊急会合で対策を協議
- 米国の対スイス関税は先進国で最も高く、7日に発効予定

スイス政府は、米国がスイスからの輸入品に39%の関税を課すとしていることを受け、米国側により受け入れやすい通商条件を提示する意向を明らかにした。
スイス政府は4日発表した声明で、「スイスは米国の懸念に配慮しつつ、現在の関税状況を緩和することを目指し、より魅力的な提案を行う用意がある」と表明。対米直接投資や研究開発への取り組みを強調した。また、当面は対抗措置を講じない方針も示した。
米国の対スイス関税は先進国の中で最も高く、7日に発効する予定だ。スイスのケラーズッター大統領兼財務相は対応を協議すべく、政府の最高意思決定機関である連邦評議会を緊急招集した。
スイス経済相経済事務局(SECO)の交渉担当者はすでに米国側に接触し、打開策を模索している。同局は1カ月以上前、より有利な暫定合意を米国とまとめた経緯があり、4日には経済界の代表へのブリーフィングも行った。
事情に詳しい当局者によれば、スイス側は少なくとも7日以降への発効延期を目指しており、現状がわずかでも改善されるなら成果だと考えているという。

先週末のスイス国内メディアでは、トランプ米大統領の不意打ちに対して備えを欠いていたとして、ケラーズッター氏への批判が噴出した。同氏は「合意の可能性があるなら、ワシントンに土壇場で出向く用意がある」と述べた。
反発はあるものの、ケラーズッター氏は直ちに職を失う危険にさらされているわけではない。スイスの政治制度は継続性を重視しており、大統領職は毎年交代制で、同氏の任期は年末までとなっている。
米国勢調査局のデータによると、スイスは2024年、米国との2国間貿易で380億ドル(約5兆6000億円)の貿易黒字だった。米国の貿易赤字相手国としては13番目の規模だ。米国が4月に世界一律の基本関税を導入した際、スイスから米国への輸出は一時急減したものの、6月には持ち直しており、両国間の貿易はなお堅調に続いている。
トランプ氏がスイスの輸入品に高関税を課すきっかけとなった貿易不均衡の背後には、金の存在がある。スイスは高品質と機密保持における長年の信頼から、世界最大の金精錬拠点となっている。南米やアフリカの鉱山から算出された金はロンドンやニューヨークの金融機関に向かい、絶えず数十億ドル規模がスイスを経由している。
関連記事:スイスの小さな金精錬産業、貿易収支を左右-米国との通商交渉続く中
スイスに残された少ない選択肢の一つとして、米国から液化天然ガス(LNG)を購入する案がある。スイスは内陸国で、水力発電と原子力発電に依存しているが、エネルギー供給の変動を緩和するため、冬季を中心に少量のガスも使用している。
今のところ、市場ではケラーズッター氏とスイス政府がより有利な合意を取り付けるとの期待が優勢だ。
ロンバー・オディエの投資ストラテジストはリポートで「交渉によってスイスの関税率39%が、欧州連合(EU)並みの15%程度に引き下げられると見込んでいる」と述べ、「この貿易紛争が解決されない可能性は低いが、その場合は国内総生産(GDP)の予測を見直すことになる」とも述べた。
スイスの緑の党の国会議員フランツィスカ・リュザー氏は、ブルームバーグの取材に対し「今回の状況からは政治的な教訓を引き出すべきだ。少なくともトランプ政権下において、米国はもはや信頼できるパートナーではないという現実を認識する必要がある。EUとの連携を強化し、欧州のパートナー諸国とより緊密に協調すべきだ」と強調した。
原題:Switzerland Is Ready to Make More Attractive Trade Offer to US(抜粋)
▽EU、貿易対抗措置を6カ月先送り-米国と週内に共同声明発表へ<bloomberg日本語版>2025年8月4日 22:49
- EU、米国が自動車関税引き下げと一部免除を発表と見込む-関係者
- 合意不成立に備えて用意した報復措置、EUは6カ月凍結-欧州委
欧州連合(EU)はトランプ米大統領が週内に執行措置を行使し、自動車関税引き下げと航空部品など一部の工業製品の関税免除を正式なものにすると見込んでいる。事情に詳しい関係者が明らかにした。
この関係者によると、米欧はトランプ大統領と欧州委員会のフォンデアライエン委員長が7月に合意した政治的コミットメントの概要を示す共同声明も発表する見通し。これらの措置の法的な形式は米国側の判断次第だという。関係者は内部の協議内容だとして、匿名を要請した。
米国との合意条件に従うと、EUは米国への大半の輸出品に15%の関税が課される。双方の当局者がこれまでに明らかにしたところでは、自動車関税も現在の25%から15%に引き下げられ、医薬品や半導体など将来決定される業種別の関税率にも15%が適用される。
ホワイトハウスが7月31日付で発表したトランプ氏の大統領令では、EUからの輸入品には15%の基本関税が上限として適用されることを確認した。一方、他の大半の貿易相手国・地域に対しては、既存の「最恵国(MFN)」税率にそれぞれの基本税率が上乗せされる形となる。
米国が合意の履行に向けて動き始めたため、EUは合意が不成立だった場合に備えて用意していた報復措置のパッケージを6カ月凍結することを提案したと、欧州委員会の報道官が4日発表した。
ただ、31日の大統領令で説明されているのはいわゆる上乗せ関税だけで、免除には触れられず、業種別の関税がどのように賦課されるのかについても記載がなかった。トランプ氏はこれまでに自動車や自動車部品に25%、鉄鋼やアルミニウムには50%の関税をそれぞれ課し、近い将来には医薬品や半導体も標的にすると示唆している。
複数の当局者は、一部の後発医薬品や航空部品など限られた数の輸入品に対して、週内に15%を下回る税率が付与されることになるだろうと語った。ブルームバーグがこれまでに報じた通り、ワインや蒸留酒など関税ゼロの取り決めで相互に恩恵を受けられそうな産品を関税対象から除外することも、双方は交渉を続けている。
原題:EU Awaits Trump Actions on Car Tariffs, Exemptions This Week (1)(抜粋)
