トランプ関税の交渉過程を眺めながら、日本と米国の関係が従属・服従・隷属関係にあるとの印象を強くした。安倍晋三元総理、岸田文雄前総理の後継である石破茂現総理は、関税交渉にあたって「WIN-WIN関係を目指して粘り強く交渉する」と、歴代総理とは一味違う表現を使った。「WIN-WIN」といえば対等な関係を意味する。とはいえいこれは建前論にすぎす、概略の合意に達した時点での日米関係は、「トランプ大統領に甲斐甲斐しくかじずく忠実な目下の役割」だった。今年は戦後80周年の記念すべき年である。日米関係を考える良い機会でもある。とりわけ元総理、前総理の二人は米議会上下両院合同委員会に招かれ講演をしている。この二人の講演録を読みながら、日米関係の」「いま」を紐解いてみた。そこにあったのは米国に対する総理大臣の「ご機嫌取り」だった。

日米関係を考えるにあたって、個人的に非常に気になった一文がある。それは齋藤ジン氏の著書、「世界の秩序が変わるときー新自由主義からのゲームチェンジー」と題する著書である。その最後に次のような一文がある。「アメリカが中国を抑え込むことを国策としている以上、アメリカが次に描く世界秩序の中には日本がどうしても必要になるので、それを踏まえて美味しい場所をとりに行く努力を継続することは有益だと思います。その意味において、私は岸田政権が非常に素晴らしい功績を上げたと考えています。世界の転換期とは新しいルールが書かれる時だ、岸田総理はそれを明確に理解した上で日本の存在感を高めることに尽力しました。かれこれ30年以上、ワシントンにいますが、岸田総理のように歓待された日本の首相はいないと思います」。これを読んだ時、個人的には大いなる違和感を感じた。私の印象は「岸田氏はバイデン政権の言いなりだった」というものだ。

岸田氏は2024年4月11日、講演を行っている。最初に「9年前、私の盟友であった故・安倍元総理が、正にこの壇上で、『希望の同盟へ』と題した演説を行いました」と講演を始める。そして父親の仕事の関係で小学校の低学年時代に米国で過ごした過去の記憶を紹介するなど、米国人受けするようなジョークとウィットに富んだ話題を提供、その上で日米関係の課題と将来展望に話を進めていく。「ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国。そこで孤独感や疲弊を感じている米国の国民の皆様に、私は語りかけたいのです。そのような希望を一人双肩に背負うことがいかなる重荷であるのか、私は理解しています」。米国に同情しつつ、「米国のリーダーシップ」の必要性を強調する。そして「『自由と民主主義』という名の宇宙船で、日本は米国の仲間の船員であることを誇りに思います。共にデッキに立ち、任務に従事し、そして、成すべきことをする、その準備はできています」。要するに配下としての忠誠心を表明している。ここに日本を代表する総理が抱く日米関係の“本質”を見る思いがした。(続く)