安倍晋三元首相が講演を行ったのは岸田総理の9年前の2015年4月29日でる。この講演は祖父・岸信介元総理の紹介から始まる。「1957年6月、日本の総理大臣としてこの演台に立った私の祖父、岸信介は、次のように述べて演説を始めました。日本が、世界の自由主義国と提携しているのも、民主主義の原則と理想を確信しているからであります」。直接的な表現ではないものの、米国の核の傘のもとで自由主義陣営に参加している歴史の重みを米議会と米国民に伝えている。このあと米国民が喜びそうなジョークと留学当時のウィットの効いた話題を織り込みながら、米国と戦後日本の過去、現在、未来の展望に話題を進めていく。9年後に講演した岸田氏は、安倍氏の講演を手本にしていることは間違いない。ジョークを絡めた話題で講演を始め夫人の紹介、安保政策を中心とした日米関係まで安倍講演のパクリに近い構成になっている。

安倍氏の講演タイトルは「希望の同盟」。「戦後の日本は、先の大戦に対する痛切な反省を胸に、歩みを刻みました。自らの行いが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない。これらの点についての思いは、歴代総理と全く変わるものではありません。アジアの発展にどこまでも寄与し、地域の平和と、繁栄のため、力を惜しんではならない。自らに言い聞かせ、歩んできました」。先の大戦に対する謝罪を前面に押し出しながら、「焦土と化した日本」を全面的に支援してくれた米国に最大限の感謝の意を表明する。そして、当時中心的な課題であったTPP成功に向けた協力を要請し、聖域なき改革への理解を求めるという構成。次に安全保障政策へと移って「日本は豪州、インドと、戦略的な関係を深めました。ASEANの国々や韓国と、多面にわたる協力を深めていきます。日米同盟を基軸とし、これらの仲間が加わると、私たちの地域は格段に安定します」。

最後に3つのお願い。「アジアの海について、私がいう3つの原則をここで強調させてください。第一に、国家が何か主張をするときは、国際法にもとづいてなすこと。第二に、武力や威嚇は、自己の主張のため用いないこと。そして第三に、紛争の解決は、あくまで平和的手段によること」。それを実現するために安倍は以下の点を強調する。「日本はいま、安保法制の充実に取り組んでいます。実現のあかつき、日本は、危機の程度に応じ、切れ目のない対応が、はるかによくできるようになります。この法整備によって、自衛隊と米軍の協力関係は強化され、日米同盟は、より一層堅固になります。それは地域の平和のため、確かな抑止力をもたらすでしょう」。これは“非核”をベースにした抑止力の強化論だ。9年後の岸田講演に盛り込まれた安全保障の強化策は、安倍講演を補強したもの。両者の講演は内容的に大きな違いはないが、米国に対する「ご機嫌取り」の度合いは岸田講演の方がはるかに“濃度”が濃くなっている。