島田雅彦氏の大作「パンとサーカス」(講談社文庫)を読んだ。文庫本で700ページに及ぶ大作。日本解体の痛快エンターテインメントだ。猛暑にもかかわらす、一気に読み終えた。米国に支配され、自由にものが言えない日本の政治家。本国の意向を受けてC I A日本代表が実質的にこの国をコントロールする。その手先となるのが日本を代表する右翼の大物。正義と悪が入り乱れ、反逆と裏切りが繰り返される政界の実態。そんな世界に二人の親友が戦いを挑む物語だ。私がくだくだ説明するよりも、アマゾンに掲載されている内田樹氏の解説文を引用しよう。「日本を“奪回”するために戦うテロリストたちの冒険譚(エンターテインメント)。戦後日本が抱え込んでいるトラウマである『アメリカの属国』という屈辱的なステイタスから身をふりほどき、国家主権の回復、『自由日本』の創建をめざして戦うテロリストたちの冒険譚」。
「痛快でないはずがない」。隷属国家という日本の“恥部”。「今の日本人にもっとも必要なのは秩序を紊乱することができるほどの想像力の暴走である。島田さんはそう考えてこの小説を書いた。父の復讐のためCIAエージェントになった男は、日米両政府の表と裏を巧みに欺き『その時』が訪れるのを待つ。親友のヤクザ二代目、聖母のごとき介護ヘルパー、ホームレス詩人、告発者、大物フィクサーらが集い引き起こされるのは世直しか、テロリズムか?いざ、サーカスの幕が上がる。壮大な政治冒険小説」。内田氏の解説を読みながら小説のストリーが現実感を持って蘇る。それもそのはずこの小説を読み始めたのが、一方的なトランプ関税の仕打ちを眺めながら、日米関係について考え始めていたまさにその時だった。石破総理が「win-winを目指して粘り強く交渉する」、その結果が5500億ドルという巨額な対米投資の枠組みだった。
日本円にして80兆円強だ。国家予算の3分の2に相当する。しかも投資収益の分配率は米国が90%、日本が10%。トランプ氏が一方的に発表している。日本は財布のように利用されている。相互関税率は15%に下がったが、同氏が脅しに使った25%に比べて下がっただけで、従来の平均2.5%に比べたら大幅にアップしている。それでも自民党からは「よくやった」と称賛の声があがる。石破総理は恥も外聞もなく「続投」に固執する。石破降ろしもままならない自民党。内田氏が指摘する「秩序を紊乱することができるほどの想像力の暴走」はどこにもない。小泉元総理は「自民党を解体する」と言った。単なるパフォーマンスにすぎなかったが、「解体」こそがいまの自民党に相応しい言葉だろう。裏金づくりだけではない。日米関係を「従属、服従、隷属」に導いたのはまさに自民党だ。「パンとサーカス」はそんな自民党の解体を目指す若者たちの冒険譚でもある。だから面白い。
