▽【米国市況】エヌビディアに売り、株市場はハイテク頼みのもろさ露呈

Rita Nazareth

  • 焦点はパウエル議長講演、ドルは147円45銭まで下落-国債は反発
  • ウクライナ停戦見通しで原油反落、金は続落-ジャクソンホール意識

19日の米株式市場では大型ハイテク株が売られ、静かな夏相場に波紋が広がった。少数の大型グロース株への依存が際立つ一日となった。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数6411.37-37.78-0.59%
ダウ工業株30種平均44922.2710.450.02%
ナスダック総合指数21314.95-314.82-1.46%

  ハイテク株の比重が高いナスダック100指数は1.4%下げ、4月の急落後では2番目の大幅下落となった。エヌビディアの下げがきつかった。S&P500種株価指数の採用銘柄500のうち、350余りが上昇したが、指数はマイナス。大型ハイテク頼みの市場の脆弱(ぜいじゃく)性が浮き彫りになった。ホーム・デポの増収を好感して、小売り大手は上昇。インテルは急伸。ラトニック米商務長官はCNBCのインタビューで、政府がインテル株10%を取得する方向で協議しているが、経営権を得ようとはしていないことを確認した。

US Stocks Flat As Private Jobs Data Sparks Growth Concerns
ニューヨーク証券取引所Photographer: Michael Nagle/Bloomberg

  クリス・モンタギュー氏はじめシティグループのストラテジストは、強い第2四半期決算を受けて株式市場のポジショニングは全般に高い水準にあると指摘した。個人投資家の株式購入の勢いは9月にいったん鈍るが、その後は再び活発になる可能性が高いとの見方を、シタデル・セキュリティーズの株式および株式デリバティブ戦略責任者、スコット・ルブナー氏が示した。

  ストラテガスのニコラス・ボーンサック氏は「相場が上り調子の時はいつも楽だ」と話す。「強気ケースが台無しになるような状況は考えにくい。最も抵抗のないのは一段と上昇するコースだが、従来型のリスク資産(株と債券)の価値が価格に完全に織り込まれている不安はますます強まっている」と述べた。

  eToro(イートロ)のブレット・ケンウェル氏は、4-6月期のS&P500種株価指数はハイテクセクターのトップ復活に助けられて過去最高値を更新したと指摘。バリュエーションは伸びきっているように見えるものの、依然として高い成長期待に助けられて価格は正当化され、人工知能(AI)の熱狂やモメンタムがハイテクセクターに引き続き主導権を与えるだろうと述べた。

  「ハイテク7強銘柄にマネー流入が続こうが、グループ内でのローテーションが起きようが、投資家は今年下期もハイテク株がリーダーシップを維持すると見込むだろう」という。

  ボウマンFRB副議長(銀行監督担当)はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、副議長としての現在の役割よりもFRB議長職に関心があるかとの質問に対し、明言を避けた。トランプ米大統領はボウマン氏を次期議長候補の一人として検討しているとされる。

  地政学情勢では、トランプ米大統領がFOXニュースのインタビューで、ウクライナとロシアの戦争終結に向け、プーチン大統領とゼレンスキー大統領にある程度の「柔軟性」を示すよう促した。

  シティー・インデックスのマーケットアナリスト、ファワド・ラザクザダ氏は「平和への道筋が少なくとも若干は明確になったという認識はあるが、トレーダーは依然として不安を感じている」と指摘。「その不安は当然だ。領土問題という最難関が控えているからだ」と述べた。

  個別株のニュースでは、ソフトバンクグループが20億ドル規模のインテル株取得を発表。人工知能(AI)ブームでの役割拡大を狙う。

  アップルはインドの5工場でスマートフォン「iPhone」の生産を拡大している。対米輸出モデル生産の中国依存を減らす狙いがある。

  テスラは中国市場向けに開発した6人乗りスポーツタイプ多目的車(SUV)「モデルYL」の価格を決めた。直接競合する理想汽車の「L8」と同じ価格帯に設定し、中間層世帯の取り込みを目指す。

米国債

  米国債相場は反発。利回りは4営業日ぶりに低下した。パウエル議長の講演を22日に控え、トレーダーは9月利下げ観測から動くことができなくなっている。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.91%-2.6-0.52%
米10年債利回り4.31%-2.5-0.58%
米2年債利回り3.75%-1.1-0.28%
  米東部時間16時43分

  22日にジャクソンホール会合で予定されているパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演に、トレーダーらは身構えている。米国債市場では9月の0.25ポイント利下げは決まったも同然とされており、年内に少なくとも一度の追加利下げが見込まれている。

  BMOキャピタル・マーケッツのイアン・リンジェン氏は「ジャクソンホールでのパウエル議長講演に備える市場では、広く共有されている9月利下げ予想にパウエル氏が水を差すことが、最大のリスクになるだろう」と述べた。

  リンジェン氏は自身の基本シナリオではないと前置きした上で、パウエル議長のハト派度合いが現在の予想を下回った場合、利回り曲線の短期部分に調整が入るリスクがあると述べた。 

  金利スワップ市場では9月利下げの確率が約80%として織り込まれているが、今後発表される経済データ次第だと警戒する声も聞かれる。

  シティグループのシニアグローバルエコノミスト、ロバート・ソッキン氏は「パウエル議長は難しい立場で22日を迎える。9月のFOMC会合まではまだ日数があり、その間に多数のデータ発表があるからだ」とブルームバーグテレビジョンで話した。「経済の労働面で起きているさまざまな事象に関する話が多くなるだろう」と述べた。

US Treasuries Break Three-Day Slide Ahead of Powell | 10-Year Yields Fall
10年債利回り出所:ブルームバーグ

  S&Pグローバル・レーティングは米国の長期ソブリン信用格付けを「AA+」に据え置くと発表。関税の収入が大型減税による財政への痛みを部分的に緩和すると分析した。

  リサ・シネラー氏らS&Pのアナリストは「(税と歳出の増減を両方含む)最近の税制・歳出立法に関係すると思われる財政悪化は、実効関税率上昇に伴う関税収入の増加でおおむね相殺される」と予測した。

  トランプ大統領は自ら推進する歴史的な関税政策が米経済に打撃を与えるとの主張に反論してきたが、S&Pの格付け評価は、大統領にとって朗報となる。

  ロンバー・オディエのシニアマクロストラテジスト、ホミン・リー氏は「米財政の健全性について、なんら実質的な変化を示唆するものではない。米財政は複雑な問題だ」と話す。ムーディーズが5月に米信用格付けを引き下げたことで警戒感が広がったが、「実際には単に象徴的な意味しかない」とし、市場の認識という面では遅行的な変化だと述べた。

外為

  ブルームバーグ・ドル指数は小幅に上昇。材料難で動意に乏しく、商いも薄い。円は対ドルで一段高となり、147円45銭まで上昇した。主要10通貨の中ではカナダ・ドルが軟調。カナダの消費者物価指数(CPI)が予想より弱く、年内の金融緩和観測が広がった。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1207.001.790.15%
ドル/円¥147.64-¥0.25-0.17%
ユーロ/ドル$1.1646-$0.0015-0.13%
  米東部時間16時43分

  市場の焦点は22日のパウエル議長講演にシフト。9月に少なくとも25bpの利下げがあるとの観測が、議長の講演で裏付けられるかどうかが注目されている。

  ボラティリティーは引き続き低く、季節要因とジャクソンホール会合を控えた様子見姿勢が影響している。次に市場を動かし得る要因としては、9月5日に発表される8月の雇用統計。ただし最近のヘッジコスト低下はやや極端だとの声が、欧州のトレーダーから聞かれた。

  ウクライナに「安全の保証」を提供する計画は、早ければ今週中にも形が見えてくる可能性がある。潜在的な和平合意の一環として欧州から部隊を派遣する計画をトランプ米大統領が支持したことで、実現に弾みが付いた。

原油

  ニューヨーク原油先物相場は反落。トランプ米大統領がロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の首脳会談実現を目指す中、停戦の見通しが意識された。

  最終的に和平合意に至れば、ロシア産原油輸出への制限が緩和される可能性がある。ただし、ロシアは紛争開始以降も原油供給をおおむね維持してきた。

  トランプ氏はこの日、FOXニュースのインタビューで、ウクライナとロシアの戦争終結に向け、プーチン大統領とゼレンスキー大統領にある程度の「柔軟性」を示すよう促した。前日には再びプーチン氏と話し、ゼレンスキー氏との2国間首脳会談の計画を立て始めるよう促していた。

関連記事:米国・欧州、ウクライナの安全の保証計画に着手-数日内に合意か

  BOKファイナンシャル・セキュリティーズのシニアバイスプレジデント、デニス・キスラー氏は「対ロシア制裁がいくらか緩和されることを市場が織り込みつつあると私はみている。もちろん何が起きてもおかしくない状況のため、織り込みのペースは緩やかだ」と指摘。「それでも、市場環境は過去数週間よりも好転しているように見受けられる」と述べた。

Oil Dips as Traders Track Ukraine Ceasefire Progress | Trump has ramped up diplomatic push to end conflict
上段:北海ブレント先物価格、下段:北海ブレント出来高出所:ICE、ブルームバーグ

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物9月限は、前日比1.07ドル(1.7%)安の1バレル=62.35ドル。10月限は1.5%安の61.77ドル。ロンドンICEの北海ブレント10月限は1.2%下げて65.79ドルで終了した。  

  金相場は続落。ジャクソンホール会合を控え、ウクライナ戦争終結に向けた米国主導の取り組みが意識された。

  米国と欧州の当局者は、ウクライナの安全に強固な保証を提供するための協議を開始した。ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領による歴史的会談に向けた道を開くことを目的としている。

  一方、ジャクソンホール会合で22日に予定されるパウエルFRB議長の講演は、市場で広がる金融緩和政策への期待を裏付ける可能性がある。金利低下は通常、利回りを生まない金に追い風となる。

  スポット価格はニューヨーク時間午後2時34分現在、前日比13.17ドル(0.4%)安の1オンス=3319.55ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は19.30ドル(0.6%)安の3358.70ドルで終えた。

原題:Nvidia-Led Tech Slide Cracks Summer Calm in Stocks: Markets Wrap(抜粋)

原題:Treasuries Rise as Traders Stick to Bets on September Rate Cut(抜粋)

原題:Dollar Ticks Up; Loonie Falls After Canada CPI: Inside G-10(抜粋)

原題:Oil Slips as Trump Ramps Up Diplomatic Push to End Ukraine War(抜粋)

原題:Gold Inches Up as Traders Track US Diplomacy Before Jackson Hole(抜粋)