米経済が直面している当面の課題はインフレ懸念と労働市場減速という、いってみれば正反対の要因だ。月初に発表された7月の雇用統計で労働市場の急激な減速が明らかになって以来、米経済に対する先行き不安が急速に高まっている。トランプ大統領はパウエルF R B議長に再三にわたって利下げを求めているが、インフレ懸念の強まりが大統領の要求にブレーキをかけてきた。そのブレーキがどうやら外れそうになっている。昨日発表された週間の失業保険申請件数が再び増加、労働市場の減速が改めて確認された。こうしたな中で日本時間の明朝未明にパウエル議長が、ジャクソンホール会合で講演を行う。FRBにとっては物価の安定と雇用の維持は2大責務。股裂状態の中で同議長がどのような判断を下すのだろうか・・・。

Bloombergによると8月の米製造業活動を示す指数は、需要の強まりを背景に約3年ぶりの高水準に上昇。改めてインフレ懸念が確認された。これを受けてクリーブランド連銀のハマック総裁は、連邦公開市場委員会(FOMC)が翌日に開催されると仮定し、「自分は利下げを支持しないだろう」と述べた。雇用統計の発表で高まった9月利下げ説にブレーキがかかった。だが、これで利下げが遠のいたかというと、どうやらそうでもない。新規失業保険の申請件数が増加し、雇用減速の兆候が新たに示された。市場関係者は利下げ見通しを後退させたが、それでも9月利下げの確率は約65%(1週間前は90%)と依然として50%を超えている。9月の17日~18日には連邦公開市場委員会(FOMC)が控えている。例年パウエル議長はジャクソンホールの講演で金融政策の今後の方向性を示唆している。今年は利下げか現状維持か、どっちに軍配をあげるのだろう。

考えてみれば中央銀行の総裁というのは大変な仕事だ。とりわけトランプ氏のような“独善的”な人が大統領に就任すると、その難易度は指数関数的に高くなる。高い関税率を導入しながら、FRBに向かって再三利下げを要求する。最近は発言を控えているものの、パウエル氏に対して度々辞任を求めてきた。トランプ関税によるインフレ加速が懸念される中での利下げ要求である。前大統領のバイデン氏には「スリーピー・ジョー」、パウエル氏には「無能」と言いたい放題。それだけではない。実体経済はさまざまな要因が重なって、景気後退局面でのインフレ懸念が強まっている。何やらスタグフレーション前夜のような雰囲気だ。こうした中での講演だ。実体経済の現状を正しく分析した上で、正しいジャッジができるかどうか、世界中が日本時間で明日未明に行われる予定のパウエル氏の講演に注目している。