▽パウエル議長、利下げのドア開ける-失業率安定で「慎重に」進行可能<bloomberg日本語版>2025年8月22日 23:04 JST
Amara Omeokwe、Jonnelle Marte
- 労働市場「やや奇妙な均衡状態」、一気にレイオフ急増のリスクも
- 2大責務両方のバランスが重要、消費者物価は関税の影響鮮明に反映
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、インフレ懸念が残る中でも労働市場へのリスクが高まっていることを指摘し、慎重ながらも9月の利下げに道を開いた。
議長は22日、ワイオミング州ジャクソンホールで開かれているカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム(ジャクソンホール会合)で講演。事前に配布された原稿によれば、「失業率など労働市場の指標の安定により、われわれは政策スタンスの変更を検討する上で慎重に進むことが可能になる」と指摘。「もっとも、政策が景気抑制的な領域にある現状では、基本見通しとリスクバランスの変化が、政策スタンスの調整を正当化する可能性がある」と述べた。
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労働市場については労働力需給の両面で顕著な鈍化が見られ、「やや奇妙な均衡状態」にあると指摘。7月の雇用統計では、ここ数カ月の雇用者数の伸びが従来の発表値より大幅に弱いことが示されたと述べた。
パウエル氏は「この異例な状況は雇用に対する下振れリスクが高まっていることを示唆している」とし、「そうしたリスクが現実化した場合、レイオフの急増や失業率の上昇という形で一気に表れる可能性がある」と語った。

セントルイス連銀の前総裁、ジェームズ・ブラード氏はブルームバーグテレビジョンのインタビューで「パウエル議長はこの講演を利用し、9月に25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げがあるとの観測を裏付けた」とし、「非常に弱かった直近の雇用統計を議長は重視していた。従ってこれは既定路線だろう」と述べた。
FRB当局者の間では政策調整の内容は時期を巡って見解が分かれている。労働市場の底堅さを指摘する当局者もいれば、雇用軟化の兆候が出始めていることから、より深刻な景気低迷につながり得ると警告する者もいる。
パウエル議長の講演を受けて、米国債利回りは全年限で下がり、金融政策の変更に対する感応度の高い2年債利回りは一時11ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下。10年債利回りは4.25%と1週間ぶりの低水準となった。ドルは円に対する下落率が一時1%を超え、146円58銭を付けた。
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また短期金融市場では、米連邦公開市場委員会(FOMC)が9月会合で利下げするとの見方が強まった。
トランプ関税
パウエル議長はただ、トランプ大統領の関税が持続的なインフレを引き起こす可能性に対し、政策当局者は警戒を怠るべきではないとも指摘。関税の消費者物価への影響は「今や鮮明になった」としつつ、影響は比較的短期にとどまるというのが妥当な予想だとも述べた。
一方、「関税による物価上昇圧力がより持続的なインフレ力学をもたらす可能性もあり、それは精査と管理が必要なリスクだ」と述べた。
「目標にこうした緊張が生じる状況では、われわれの枠組みは2大責務の両方のバランスを取ることを求めている」とパウエル氏は付け加えた。
枠組みの変更
パウエル議長はまた、金融政策判断の指針となる中長期的な戦略である政策の枠組みについて、加えられた変更を説明した。
そうした変更には、2020年に導入された方針の明確化が含まれる。当時の方針変更は、失業率が低い状況でインフレを未然に防ぐ目的での利上げは行わないとのシグナルを発していた。
パウエル氏は22日、失業率が長期的にどの水準に落ち着くべきかという推定「のみを根拠に」利上げを行う必要はないという認識で、政策当局者はなお一致していると指摘。その上で、20年に行った修正は決して、労働市場が強い場合に将来のインフレ上昇を見越して利上げする能力を「永久に放棄する」ことを意図したわけではないと付け加えた。
この日に発表された変更では、政策決定は「最大雇用への未達」判断に基づくとの文言が削除された。その代わり、「雇用は時に最大雇用のリアルタイム評価を上回ることがあっても、それが必ずしも物価安定へのリスクを生むわけではない」とより具体的に表現する文言が採用された。
この修正は労働市場過熱に対する許容低下を示唆する一方、FRBに対応の選択肢を維持させる内容となった。
KPMGのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は「政策枠組みの変更は、FRBに新型コロナ禍後の経済における対応余地を広げるものだ。動きの鈍いコロナ禍前に比べ、コロナ禍後の経済ではボラティリティーが高く、予測可能性が低くなっている」と述べた。
当局者はまた、2%のインフレ目標およびインフレ期待の抑制を維持することの重要性を再確認した。一方で、20年に導入された、目標を下回る時期を補うために目標超えのインフレを容認するというアプローチは撤廃。また低金利を「経済情勢を決定づける特徴」と位置付ける文言も削除されたと、パウエル氏は説明した。
原題:Powell Opens Door to Interest Rate Cut, Citing Labor Markets(抜粋)
▽FRB議長、利下げに道 「慎重に進める」とも<ロイター日本語版>2025年8月23日午前 6:32 GMT+9

[ジャクソンホール(米ワイオミング州) 22日 ロイター] – 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は22日、世界の金融当局者らが集う年次経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で講演した。雇用への「下振れリスクの高まり」に言及し、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げに着手する可能性を示唆した。ただ、インフレは引き続き脅威であり、今後の利下げは「慎重に進める」という認識を示し、利下げを確約するには至らなかった。
パウエル議長は「失業率やその他の雇用関連指標が安定しているため、政策スタンスの変更を検討する際は慎重に進めることができる」と述べた。同時に「政策は引き締め的な領域にあり、ベースライン見通しとリスクバランスの変化を踏まえると、政策スタンスの調整が正当化される可能性がある」とした。
グレート・ヒル・キャピタルのトーマス・ヘイズ会長は「想定以上にハト派的で、9月に動くお膳立てをした」とし、「この状況が唯一とん挫する可能性があるとすれば、9月第1週に発表される米雇用統計が過度に好調となる場合だろう。ただその可能性は低いとみられる」と述べた。
パウエル議長の講演を受け、金融市場が織り込む9月会合での0.25%ポイント利下げの確率は約85%に上昇した。講演前は75%程度だった。12月に2回目の利下げが実施されるという予想も優勢となっている。
ドイツ銀行などの多くのアナリストは、FRBが12月まで利下げを見送るという従来の見通しを修正し、年末までに0.25%ポイントの利下げが2回実施されると予想した。
パウエル議長はまた、「労働市場は均衡しているように見えるものの、これは労働力の供給と需要の双方が著しく減速していることから生じる奇妙な均衡だ」と指摘。こうした状況は「雇用に対する下振れリスクの高まりを示唆している。これらのリスクは顕在化すれば、急速に進む可能性がある」と述べた。
さらに「関税による物価上昇圧力がより持続的なインフレを誘発する可能性があり、評価と管理が必要なリスクだ」という認識も示した。ただ、米政権の関税措置が物価上昇を招くことが予想されるものの、基本シナリオに基づくと、インフレへの影響は薄れていく見通しとした。
パウエル氏にとり、今回がFRB議長として最後のジャクソンホールでの講演となる。講演の冒頭、観客は総立ちでパウエル氏に拍手を送った。
パウエル議長の金融政策運営を繰り返し批判し、利下げを要求しているトランプ大統領はパウエル氏の講演後、「彼を『遅すぎる』と呼ぶのには理由がある。1年前に利下げすべきだった。遅すぎる」とコメントした。


