▽【米国市況】30年債利回り上昇、ドル下落-FRB独立性巡る懸念で

Rita Nazareth

  • 株は反発、9月利下げ期待や堅調な景気と企業収益で強気ムード
  • インフレ懸念が長期ゾーン圧迫、5・30年スプレッド21年以来の水準
A Wall Street sign in front of the New York Stock Exchange/Photographer: Michael Nagle/Bloomberg
A Wall Street sign in front of the New York Stock Exchange/Photographer: Michael Nagle/Bloomberg

26日の米金融市場では、30年債利回りが上昇する一方、ドルは売られた。トランプ大統領がクック連邦準備制度理事会(FRB)理事を解任すると発表したことで、FRBの独立性とインフレ高進への懸念が強まった。

  夏の薄商いの中で値動きは比較的限られたが、金融政策への政治介入に対する市場の不安を浮き彫りにした。一方、株式相場は反発した。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.92%3.10.63%
米10年債利回り4.26%-1.4-0.32%
米2年債利回り3.68%-4.5-1.20%
  米東部時間16時47分

  30年債利回りは一時5ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇し、4.94%をつけた。フランスや英国の長期債がインフレ加速や財政赤字拡大への懸念から売られたことも重しとなった。

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  一方、9月の利下げ観測を背景に、金融政策見通しに敏感に反応する2年債利回りは低下。堅調な2年債入札(発行額690億ドル)を受けて、この日の最低水準となる3.67%をつけた。最高落札利回りは3.641%と、入札前取引(WI)水準の3.656%を下回った。

  5年・30年債の利回り差は一時7bp拡大の117bpと、2021年以来の水準に達した。

  クック理事の弁護士は、トランプ氏にクック理事を解任する権限はないと主張。「書簡1通だけを根拠にクック氏を解任しようとする試みは、事実的にも法的にも根拠がない。違法な行為として訴訟を提起する」と表明した。

関連記事:クックFRB理事の弁護士、トランプ氏の「違法な」解任に抗議し提訴へ

  その後、FRBはクック理事の提訴の意向を受けて声明を発表。「いかなる裁判所の決定にも従う」と述べた。一方、トランプ大統領は法廷闘争の用意があるとした上で、裁判所の指示に従うと述べた。

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  ハリス・ファイナンシャル・グループのマネジングパートナー、ジェイミー・コックス氏は「トランプ大統領は向こう1年でFRBの理事人事を刷新しようとしており、その手法は極めて異例だ」と指摘。

  FRBのフォワードガイダンス機能を「実質的に奪う」形になっており、市場に利下げが近いと示唆していると述べた。 

  ナティクシス・ノース・アメリカの米金利戦略責任者、ジョン・ブリッグス氏は、クック理事の後任が「よりハト派になる」との思惑が短期ゾーンの利回り低下を促していると指摘。一方で、長期ゾーンの利回りは「これに伴うインフレ圧力や独立性喪失への懸念を反映して上昇している」と述べた。

  BMOキャピタル・マーケッツのストラテジスト、イアン・リンジェン氏は「トランプ大統領がクック理事の解任に乗り出したことで、FRBの独立性に対する懸念がさらに強まった」と指摘。「米金利市場の値動きはおおむね直近のレンジ内にとどまっているが、FRBの独立性低下に備える代表的なヘッジ手段の多くは、クック氏の解任報道を受けてアウトパフォームした」と述べた。

  ジェフリーズのブラッド・ベクテル氏は「この問題の決着は、最終的に司法の判断に委ねられる可能性が高い」と指摘。「仮にクック氏理事の解任が実現すれば、トランプ大統領は新たに理事1人を指名することになり、政治的な観点から理事会を自身に有利な方向へと誘導できる」との見方を示した。

  S&Pグローバル・レーティングは先頃、政治情勢の影響で「米国の制度の強靱(きょうじん)性や、長期的な政策決定の有効性、FRBの独立性が損なわれる場合、米国の信用格付けが圧力を受ける可能性がある」と警告している。

為替

  ニューヨーク外国為替市場では、クック理事の解任問題を背景にドル指数が下落。主要10通貨の中では、スイス・フランや円の堅調さが目立った。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1205.44-2.17-0.18%
ドル/円¥147.41-¥0.39-0.26%
ユーロ/ドル$1.1643$0.00250.22%
  米東部時間16時48分

  ブルームバーグ・ドル・スポット指数は0.2%低下した。

  一方、円は対ドルで上昇。ニューヨーク時間はおおむね147円台で推移した。東京時間には146円99銭まで買われる場面もあった。

  TDセキュリティーズの通貨ストラテジスト、ジャヤティ・バラドワジ氏は「FRBや労働省労働統計局(BLS)といった機関の運営に米政権が継続的に干渉すれば、これらの機関の信頼性を損なう」と指摘。

  「こうした動きは安全資産としてのドルの地位を一段と弱め、リスクプレミアムがドルの重しとなるだろう」と述べた。

  ドイツ銀行のグローバル外国為替調査責任者ジョージ・サラベロス氏はFRBの独立性に対する脅威について、市場が「楽観的過ぎる」との見方を示し、こうしたリスクを市場がもっと織り込む必要があるとリポートに記した。

ドル・円相場の推移

株式

  主要3株価指数がそろって反発。政治色の強い報道が相次ぐ中でも、市場では強気なムードが根強かった。9月の利下げが有力視されているほか、米経済の底堅さや企業収益の堅調さが、株式投資家のセンチメントを支えている。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数6465.9426.620.41%
ダウ工業株30種平均45418.07135.600.30%
ナスダック総合指数21544.2794.980.44%

  決算発表を翌日に控えたエヌビディアがこの日も買われ、1.1%高で終えた。

  またロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン、ゼネラル・ダイナミクスなどの防衛株が値上がり。米政府がインテルの株式10%取得に続き、防衛やその他産業での株取得の可能性も視野に入れているとしたラトニック商務長官の発言が材料視された。

  UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのウルリケ・ホフマン・ブチャディ氏は「FRBに対する政治的圧力の高まりを引き続き注視するが、当面の意思決定は引き続きFRBの責務に基づいて行われると見込んでいる」と指摘。

  とりわけジャクソンホール会合におけるパウエル議長のハト派的な発言が、市場の9月利下げ観測を後押しした点に言及した。

  その上で「今後6-12カ月にFRBが政治色を帯びるリスクが高まる可能性がある。地区連銀総裁の間でも党派的な色彩が強まれば、特にその傾向が顕著になるだろう」と語った。

関連記事:FRB地区連銀総裁の解任リスク「現実化しつつある」-ブレイナード氏

  この日発表された経済指標では、民間設備投資の先行指標となるコア資本財の受注が市場予想を上回る伸びとなった。貿易と税制を巡る不確実性が徐々に低下する中で、企業が投資計画を推進している状況が示唆された。一方、米消費者信頼感は小幅に低下し、雇用と所得に対する懸念が深まっていることを反映した。

  eToro(イートロ)のブレット・ケンウェル氏は「消費者は恐れてはいないが、やや慎重になっているようだ」と指摘。「企業の決算説明会では、個人消費の耐性がうかがわれる。小売売上高も同様の安心材料を示している」と指摘した。

   一方、リッチモンド連銀のバーキン総裁は、年内の経済活動に大きな変動はなく、金利の調整は小幅になるとの見通しを示した。

原油

  ニューヨーク原油先物相場は5日ぶりに反落。供給動向に関する明確な手掛かりを待つ中、トランプ大統領がクックFRB理事を解任しようとしていることを受け、リスク資産全体に慎重な姿勢が広がった。

  ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は8月初め以来の大幅安となり、1バレル=63ドル近辺で取引を終えた。今月はおおむね62-65ドルの狭いレンジ内で推移している。

  米国土安全保障省は25日、インドによるロシア産原油の購入を理由にインド製品に対する関税を2倍に引き上げると通知した。27日に適用される。

関連記事:トランプ政権、インド輸入品への50%関税賦課巡る通知案を公表

  トランプ大統領は26日の閣議で、原油価格が「60ドル付近まで下がっている」と述べ、「近く60ドルを割り込むだろう」と予想した。ただ、どのような要因で60ドルを下回ると考えているのかについては明言しなかった。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI10月限は前日比1.55ドル(2.4%)安の63.25ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント10月限は2.3%下げて67.22ドルで終えた。 

  金相場は反発。トランプ氏が25日にクック理事を解任する意向を表明したため、FRBの独立性に対して懸念が強まり、金には逃避目的の買いが入った。

  サクソ・キャピタル・マーケッツのチーフ投資ストラテジスト、チャル・チャナナ氏はクック理事が解任された場合の後任について、「どのような人選であれ、トランプ氏が求める金融緩和路線に沿ったものと受け止められるだろう」と指摘。

  「金相場にとって、利下げ観測の高まりが支援材料になるだけでなく、将来的なインフレや制度上のリスクへのヘッジ需要という面でも追い風になる」と述べた。

  スポット価格はニューヨーク時間午後3時7分現在、前日比20.16ドル(0.6%)高の1オンス=3386.05ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、15.50ドル(0.5%)高の3433ドルで終えた。

原題:US 30-Year Bonds Extend 2025 Slide on Fed Threat: Markets Wrap

Long US Bonds Fall as Threat to Fed’s Cook Spurs Inflation Worry

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Gold Advances After Trump Moves to Fire Fed Governor Cook(抜粋)