関税が上がっても、ウクライナやガザ戦争に終結の見通しが立たなくても、世界中で株価だけは順調に上昇している。多少の上下動はあるものの、総じて上昇基調を保っているといっていいだろう。とりわけ日米の株価は悪材料のあるなしに関係なく上昇している。どうしてだろう。いつも気になっているのだが、その答えを見つけられないでいた。そんな中でFinTec Journalに投稿された第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト・藤代宏一氏の原稿を読んだ。タイトルは「生活苦しいけど…なぜ株価爆伸び?『トランプ関税』が激変させた“経済のカラクリ”」とある。一読して「なるほど」との印象を受けた。トランプ関税の登場によって世界中の経済の流れが激変したというのだ。そのポイントは何か?実質GDP重視から名目GDP重視に経済の潮流が変化したというのだ。

藤代氏は日本のGDPに注目する。8月15日に発表された4-6月期GDPは、実質が前期比(年率)でプラス1.0%だったが、名目は同プラス5.1%と飛躍的に伸びている。その差4.1%がインフレ率だ。食料品価格が高止まりし、日銀の物価目標(2%)を超えた状態が続いている。インフレは国民の生活面から見ると「悪」であることは間違いない。だが、これを株価という側面から見ると、その裏付けとなる企業業績は名目値であり、名目GDPが増えれば業績は向上する。藤代氏は「株価を予想する際、名目値を膨らませるインフレを悪と見なすだけでは、企業価値を読み誤る恐れがある」と指摘する。GDPと株価の長期推移に目を向けると、「2022年以降の株高はおおむね名目GDPの拡大に沿っている」と指摘する。株価や企業業績は名目値で評価される。コロナ明け以降インフレが株価の追い風になっているわけだ。

金額ベースで見れば実質GDPは563兆円、これに対して名目GDPは633兆円となっており、この1年で名目GDPは前期比で26兆円も増えている。長期的な推移を見ても、デフレ脱却の最大の要因はインフレということになる。インフレが続く限り株価は上昇する。藤代氏も「日経平均株価は1年以内に4万5,000円程度まで上昇するのではないか」と予想する。とはいえ、インフレは国民生活を苦境に陥れる。これを解決するために必要なのは減税だ。石破政権は減税には財源が必要だと「能天気」に繰り返す。基礎控除の引き上げもトリガー条項の廃止に伴う財源も、いずれも名目の金額である。この1年で名目GDPは26兆円も増えている。GDPが増えれば税収も増える。減税はGDPのさらなる増加を加速する。世界の潮流は「国民を豊かにする」方向に向かっている。それに背を向ける“財源論”は愚者の論理に過ぎない。