▽クックFRB理事がトランプ氏提訴、解任は経済に「修復不能な危害」
Erik Larson
- 弁護団、疑惑の原因は意図せぬ「事務上の手違い」との見方を示唆
- ワシントンの連邦地裁判事、29日午前10時に緊急審理を設定

米連邦準備制度理事会(FRB)のクック理事は28日、住宅ローン申請に関する不正疑惑を理由に自身を解任しようとしているトランプ米大統領に抗議し、ワシントンの連邦裁判所に提訴した。FRBの独立性を巡る歴史的な法廷闘争が始まった。
クック理事の弁護士はトランプ氏の試みは権力の掌握が狙いであり、米経済に「修復不能な危害」を与えかねないと非難した。また疑惑が生じた原因は、意図せぬ「事務上の手違い」にあるとの見方を示唆した。
ホワイトハウスとFRBの間で深まる対立は、訴訟によって新たなレベルに引き上げられた。トランプ大統領はパウエル議長を繰り返し公然と非難し、利下げを要求しているが、FRBは金利を維持している。パウエルFRB議長はトランプ氏からの辞任要求にも抵抗している。
クック理事は訴訟開始に伴い、トランプ氏による解任が効力を持たないよう、仮差し止め令の発令を連邦地裁のコッブ判事に求めた。FRBでの現状維持と公共の利益を守るために差し止め令が必要だと主張している。
コッブ判事は29日の午前10時に緊急審理を設定した。同判事はバイデン前大統領が任命した。
FRBの中立性は米市場の根幹をなす前提であり、それが米国の信用格付けを支えている。今後数日から数週間のうちに下される判決は、大統領によるこうした行為で独立性が損なわれるとの投資家の懸念を、一段と強める可能性がある。
トランプ氏は25日、クック理事の「金融に関わる不正直で、場合によっては犯罪的ともいえる行為」を考慮し、即時解任する意向を表明した書簡をソーシャルメディアに投稿した。クック理事は正式な調査を受けておらず、いかなる不正でも起訴されていない。
クック氏側は訴訟で、トランプ氏が主張する住宅ローン申請書類を巡る不正行為は立証されておらず、上院が理事就任を承認する前のことなので、解任の「正当な理由」には当たらないと主張した。
「大統領の短期的な政治的利益は、健全な金融政策としばしば衝突する」と、弁護士のアビー・ローウェル氏は訴状で述べた。「政治的に独立したFRBは、インフレ対策として金利を引き上げるといった適切だが多くが好まない決定を行うことが可能であり、それは米金融の長期的な健全性にとって極めて重要だ」と主張した。
トランプ氏が解任の理由としている住宅ローン不正について、クック氏の弁護士は意図せぬ「事務上の手違い」が原因だった可能性があるとの見方を示唆した。
弁護団は裁判所に提出した文書で、疑惑に対する初の弁護となり得る主張を展開。「FRB理事就任よりかなり前に行われた住宅ローン申請で、住居の目的を誤って記載していた可能性があったとしても、それが故意でも重要なものでもない限り、『正当な理由』に該当するような『違反行為』ではない」と、仮差し止め命令を求める訴状に記した。
「疑惑は口実」
クック氏の弁護士アビー・ローウェル氏は訴状で「本件訴訟は、トランプ大統領による前例のない違法なクック理事解任の試みを争うものであり、それが認められれば理事会の歴史上初の事態となる」と指摘。「住宅ローンに関する疑惑は口実にすぎず、速やかに解任して空席を生じさせ、トランプ大統領が任命権を行使して連邦準備制度の独立性を損なおうとする政治的アジェンダを推し進める狙いがある」としている。
訴訟の提起を受け、ホワイトハウスはトランプ氏の行為は合法だと主張した。
ホワイトハウスのデサイ報道官は「理事が金融機関を監督する極めて重要な地位にありながら、財務文書に虚偽を記載したと告発されたのは、解任する正当な理由に値すると大統領は判断した」と説明。「正当な理由により理事を解任することは、市場に対しても米国民に対しても連邦準備制度理事会の説明責任と信頼性を高めることにつながる」と述べた。
FRBはコメントを差し控えた。
原題:Lisa Cook Suit Says Her Firing by Trump Puts US Economy at Risk(抜粋)
原題:Cook Suggests ‘Clerical Error’ Was Behind Mortgage Dispute (1)(抜粋)
原題:Lisa Cook Suit Says Her Firing by Trump Puts US Economy at Risk(抜粋)
