▽【米国市況】国債売りの圧力後退、雇用統計前に利下げ観測強まる
Rita Nazareth
- 米求人件数、10カ月ぶりの水準に減少-予想も下回る
- 一時5%に迫っていた30年債利回りは4.9%付近に低下
3日の米金融市場では、国債相場が上昇(利回りは低下)。長期債の売りに歯止めがかかった。7月の米求人件数が予想を下回り、市場では今月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合での利下げがほぼ完全に織り込まれた。株式市場ではS&P500種株価指数が反発。外国為替市場ではドル売りが優勢となった。
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| 国債 | 直近値 | 前営業日比(bp) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 米30年債利回り | 4.90% | -6.5 | -1.30% |
| 米10年債利回り | 4.22% | -4.5 | -1.05% |
| 米2年債利回り | 3.62% | -2.3 | -0.62% |
| 米東部時間 | 16時43分 |
金利先物市場では、今月の0.25ポイント利下げの確率を約95%と織り込み、年内に少なくとも2回の利下げが実施されるとの見方が強まった。
利下げ観測の高まりを受け、2年債利回りは一時3.6%と5月初旬以来の水準に低下。心理的な節目となる5%に迫っていた30年債利回りは4.9%ちょうど付近に下がった。

市場の注目は5日発表の8月雇用統計に移っている。米金融当局者にとっては、9月のFOMC会合前に発表される同統計が重要な判断材料となる。
ブラックロックの米州チーフ投資ポートフォリオストラテジスト、ガルギ・チャウドゥリ氏は「米金融当局は9月に動くとみられており、雇用統計のデータが重要だ」と指摘。市場が織り込む0.25ポイントの利下げ以外の選択肢を当局が取るには、雇用統計が「極めて強いか、あるいは極めて弱い内容であることが条件になる」と語った。
ニューヨーク・ライフ・インベストメンツのローレン・グッドウィン氏も、雇用統計で有意な上振れサプライズがない限り、当局は9月会合での0.25ポイント利下げを決定するとみている。ただ、「9月の利下げが長期的な利下げサイクル入りを示すとは現時点で考えにくい」とも指摘。「インフレリスクは現実的であり、関税や企業による価格転嫁、労働供給の急減など多方面から生じている。しかも金融環境は極めて緩和的であり、急速な利下げサイクルを正当化するのは難しい」と述べた。
求人件数の減少は、企業が関税の経済への影響を見極めようと、採用に一層慎重かつ選別的になっていることを示唆している。採用ペースも鈍化しており、失業者が再就職先を見つけるまでの期間も長引いている。
米連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事は、今月から利下げを開始し、今後数カ月にわたり複数回利下げすべきだとの考えを示した。ただ、そのペースについては議論の余地があるとしている。米CNBCとのインタビューで発言した。米アトランタ連銀のボスティック総裁は、年内の利下げは1回が妥当との見解を改めて示した。ただし、インフレや労働市場の動向次第で変わる可能性もあると述べた。
失業保険の継続受給者数が数年来の高水準で推移していることや、最近数カ月の雇用者数が大幅に下方修正されていることと合わせれば、今回の求人件数データは労働市場の軟化傾向を一段と浮き彫りにしている。
eToro(イートロ)のブレット・ケンウェル氏は「求人件数の結果は警戒シグナルとまでは言えないが、米国の雇用市場が軟調であることを改めて示した」と指摘。その上で「短期的には、今回の結果は当局の利下げ判断を後押しする材料であり、9月に利下げが実施される可能性が高まった。長期的には、単に利下げを期待するために労働市場の大幅な悪化を歓迎すべきではない」と語った。
株式
米株式市場でS&P500種は反発。同指数構成銘柄の多くが下落したが、グーグルの親会社アルファベットの上昇が大型株をけん引した。グーグルがウェブブラウザーの「クローム」を売却する必要はないとした裁判所の判断が好感された。
アップルも高い。事情に詳しい関係者によると、アップルは来年、自社開発の人工知能(AI)を活用したウェブ検索ツールを導入する計画だ。
| 株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| S&P500種株価指数 | 6448.26 | 32.72 | 0.51% |
| ダウ工業株30種平均 | 45271.23 | -24.58 | -0.05% |
| ナスダック総合指数 | 21497.73 | 218.10 | 1.02% |

株式相場は前日、ハイテク株の割高感や世界的な財政懸念を背景に下落し、9月は軟調な滑り出しとなっていた。
ネーションワイドのマーク・ハケット氏は「9月は予想どおりのボラティリティーの波で始まり、具体的なデータが乏しい中で関税の不透明感やうわさが投資行動を左右した」と指摘。「4月以降の大幅な上昇を経て、バリュエーションや期待が高止まりし、マクロ経済を巡る懸念がくすぶる状況も踏まえれば、調整局面は想定内であり健全とも言える」と付け加えた。
エマニュエル・コー氏が率いるバークレイズのストラテジストチームは、世界経済が予想以上に堅調で、FRBが今後利下げに動く可能性が高いことから、投資家は押し目を拾うべきだとしている。
フェデレーテッド・ハーミーズのスティーブ・チアバロン氏は「下げ局面ではむしろ買い増す」ことを推奨。「雑音やボラティリティーを取り除けば、企業利益が伸び、業績予想が上方修正され、経済指標が堅調で金利も低下に向かう環境で、米国株に逆らう理由はない」と語った。
為替
ドル指数は下落。ニューヨーク時間午前10時に米求人件数が発表された直後からドルを売る動きが強まった。
| 為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| ブルームバーグ・ドル指数 | 1205.52 | -1.62 | -0.13% |
| ドル/円 | ¥148.10 | -¥0.26 | -0.18% |
| ユーロ/ドル | $1.1664 | $0.0024 | 0.21% |
| 米東部時間 | 16時45分 |
円相場は上昇。同統計発表前は1ドル=148円台後半で推移していたが、利下げ観測が強まってドル売りが優勢になると上昇に転じ、一時147円88銭まで値を伸ばした。

ユリゾンSLJキャピタルのスティーブン・ジェン最高経営責任者(CEO)は、米経済は向こう12カ月で緩やかなソフトランディングに向かう見通しだとし、それが次のドル安要因になると3日のリポートで指摘。米国の製造業復活や経済安全保障の確立は「過度に割高ではないドル」でしか実現できないため、トランプ政権は依然として相対的に弱いドルを望んでいるとの見方を示した。
FRBはこの日、最新の地区連銀経済報告(ベージュブック)を発表。米経済活動はこの数週間、大半の地区で「ごくわずかに成長したか、全く変わらず」だったとし、「個人消費は横ばいないし減少したとの指摘が地区を越えて報告された。多くの世帯にとって、賃金が物価上昇ペースに追いついていないからだ」と説明した。
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原油
ニューヨーク原油相場は反落。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成される「OPECプラス」が、週末に開く会合でさらなる増産を検討する方針だとの報道で、下げ幅を拡大した。
ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は、この報道前に発表された米経済データが予想より弱かったため、すでに下げていた。前日はほぼ1カ月ぶりの高値で引けていた。
ロイター通信はOPECプラスが7日の会合で、さらなる増産を検討すると、事情に詳しい関係者2人の情報に基づいて報じた。大半のアナリストやトレーダーは、増産が長く続いた後の10月の産油計画は現状維持を見込んでいる。OPEC加盟国の代表は先月、9月会合は増産や減産など複数の選択肢が考えられると述べていた。

トランプ米大統領の発言を受けて、原油価格は下げ幅を縮小する場面も見られた。トランプ氏はロシア産原油を購入するインドへの関税賦課に言及、まだ「第2段階」や「第3段階」に達していないと記者団に述べた。
CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「OPECは今年、はっきりと進路を変更した。市場シェアの確保やトランプ大統領への同調を否定するつもりはないが、季節的に需要が軟化する時期に減産計画を巻き戻すのは、過信のリスクを冒す行為だ」と述べた。その上で自身の基本シナリオとして、OPECは現時点では増産しないとみていると続けた。
OPEC会合は地政学的リスクが高まっている中で開かれる。トランプ大統領はウクライナ停戦を実現する目的で、ロシア産原油を購入しているインドに圧力をかけているほか、米軍がベネズエラの麻薬運搬船を攻撃したと述べた。
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こうしたリスク上昇に、商品投資顧問業者(CTA)のトレンド買いが加わり、原油価格はこのところ上昇傾向にあった。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI10月限は、前日比1.62ドル(2.5%)安の1バレル=63.97ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント11月限は2.2%下げて67.60ドル。
金
金相場は続伸し、再び過去最高値を更新した。米利下げ観測を背景に金の魅力が高まると共に、最近の株式や債券の相場下落を受けた安全資産への逃避需要も重なった。
金スポット価格は1.3%高の1オンス=3578.51ドルまで上昇。この7営業日で約6%上昇しており、連邦準備制度理事会(FRB)を巡る先行き不透明感や先進各国の財政問題への懸念が再燃する中で、安全資産への需要が下支えとなっている。
金相場は今年に入ってから3分の1余り上昇しており、主要なコモディティーの中で特に好調なパフォーマンスとなっている。今回の上昇局面は、米金融当局が今月にも利下げに踏み切るとの観測が背景にある。パウエルFRB議長が慎重ながらも利下げの可能性に言及したことで、その期待が高まった。5日に発表される8月雇用統計では、労働市場のさらなる冷え込みが示されると予想されている。金利の低下は、利息を生まない金投資の追い風と受け止められている。

市場はまたトランプ大統領にクックFRB理事解任の権限があるのかという問題を、司法がどう判断するかに注目している。合法と判断されれば、大統領はクック理事を解任しハト派的な人物を後任に据えることが可能になる。
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金スポット価格はニューヨーク時間午後3時5分現在、前日比37.28ドル(1.1%)高の1オンス=3570.44ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、43.30ドル(1.2%)高い3635.50ドルで終えた。
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