サントリーの会長であり経済同友会の代表幹事である新浪剛史氏が、1日付でサントリーの会長を辞任した。2日に会社が辞任を発表。3日に新浪氏自身が同友会代表として定例の記者会見に出席、釈明と謝罪を行った。同友会代表は継続する意向。同氏によると「(同友会には)会員倫理制度などしっかりとしたガバナンスの仕組みがある」としており、透明性の高い同友会の仕組みに最終判断を委ねると述べた。疑惑は睡眠促進用に米国で購入したサプリメントに、日本では禁止されている薬物(THC=テトラヒドロカンナビノール)が含まれていたというもので、捜査当局による事実解明が現在も進行している。日本を代表する論客であり、サントリー会長としての実績も高い人だけに、辞任発表と同時にメディアの報道合戦になっている。

疑惑は未解明な部分が多く、現時点で黒白はつけ難い状況のようだ。にもかかわらず報道だけは異常に盛り上がっている。そんな中で個人的にはいくつか気になる点がある。なぜサントリーは未解明な状態の中で会長に辞任を求めたのか。当初は解任も検討したようだ。同社がサプリメントを製造・販売していることから、ブランドに傷がつく前に先手を打った。コンプライアンス上の防衛策かもしれない。新浪氏もこの点は納得している。だが、サントリーと経営者の集まりである同友会との対応にどうして差がつくのだろう。個別企業と団体組織で進退の基準は違うのだろうか。企業の場合は後手を踏むと業績に波及する。新浪氏は「日本の食品会社が世界で戦える」「サントリーという文化、商品、そしてサービスが世界に通じるモノになる。それが私自身に課された課題であり、それを実現していった」と語る。自分で作ってきたものに「傷を付けないために辞することにした」、これは“本音”だろうか。

新浪氏は論客として歯に衣着せず、ストレートなものいいで評価を得てきた人だ。財界人が二の足をふむ「金利のある世界」への移行を率先して後押した。最低賃金の引き上げを主張、「払えない経営者は退出するしかない」とまで言い切っている。中小企業経営者に向かってこういうことを言える人は日本にはほとんどいない。こうした言動から既得権益にきびい人との評価も定着していた。日本の支配システムは既得権益の塊でもある。捜査当局は疑惑を解明するために新浪氏の自宅を家宅捜査している。それでも何も出てこなかった疑惑でサントリーは実績のある会長に辞任を要求した。コンプライアンスの趣旨は「リスク情報を隠蔽しない」ことにある。疑惑をタイムリーに公表し、事実関係の解明を待つ。「疑わしきは罰せず」の原則は、コンプライアンスに適用しなくていいのだろうか。それとも疑惑にはもっと深い背景があるのだろうか。既得権益層からの逆襲でないことを祈りたい。