日本の実質賃金の伸び率が7カ月ぶりにプラスに転換した。Bloombergは以下のように伝えている。厚生労働省が5日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、「持ち家の帰属家賃を除く」消費者物価指数で算出した実質賃金は前年同月比0.5%増。名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は同4.1%増で、昨年12月以来の高い伸び率となった。プラス転換と言ってもわずか0.5%増だ。微増の範囲にとどまっている。それでもプラス転換した意味は大きい。問題はこれが定着するかどうかだ。実質に引き換え名目賃金は同4.1%増と大幅に伸びている。物価上昇率の同3.6%増を上回った。石破総理の常套句である「物価上昇を上回る賃上げ」が実現したわけだ。まずはメデタシ、メデタシと言っていいだろう。欲を言えば名目で5%を上回る伸び率を期待したいところだ。

物価の上層率はこの先も高い水準を維持するだろう。天候異常で生鮮野菜など食料品の値上げが続く。名目賃金もそれにつれて上昇することは間違いない。問題は物価の伸び率を抑えながら名目賃金が伸びるかどうかだ。石破政権は自らの延命のために物価対策に取り組むようだ。これがスムーズに進むかどうかだ。総裁選の前倒しの結果も不透明で、タイムリーに対策を打てるか不透明だ。物価対策が後手を踏むと、物価だけが上昇することになりかねない。物価対策だけではない。日銀の政策金利の引き上げが遅れると、円安が加速する。そうなると輸入物価が急騰する。物価だけが上がると企業は、給与の増額を躊躇するようになり、名目賃金が物価の上昇分に追いつかなくなる。実質賃金は再びマイナスの世界に逆戻りするだろう。

実質賃金がマイナスに逆戻りすると、何が起こるのか。消費者は財布の紐を閉める。消費が後退すると企業の売上に影響が出る。売上が減少すれば物価を上回る賃金が支給できなくなる。企業にはトランプ関税という負担ものしかかっている。要するに、いつかきた道の再来だ。日本経済全体が再びデフレに転落しかねない。それを避けるための対策はないのか。ある。手っ取り早いのが減税だ。ガソリン減税でも消費税減税でも、極論すればどちらでも構わない。減税によって実質的な賃金の増加を図れば、物価を上回る水準に名目賃金を押し上げることができる。だが、延命に固執する石破政権は減税の財源に拘る。もっと言えば虎視眈々と増税を狙っている。石破政権の続投は結果的に国民の生活苦に拍車をかける。総裁選の前倒しが決まっても、次の政権がこの構造を変えない限り総裁選をやる意味がない。