今朝、Bloombergニュースを見て驚いた。データ重視の米国社会で、その元締めともいうべき労働省傘下の労働統計局で深刻な労働者不足が発生しているというのだ。どうしてこういうことが起こったのか。トランプ大統領が推進する公務員の早期退職プログラムに応募する職員が増えていることが一因のようだが、問題の根源はバイデン前大統領時代から続いているという。米国が直面している課題は貿易と財政という双子の赤字だけではないようだ。労働統計局(BLS)では、深刻な人手不足が続いている。Bloombergは以下のように指摘する。「BLSのウェブサイトによると、同局の上級職のうち3分の1が空席となっている。雇用統計の各分野や地方事務所の運営を監督する複数の幹部ポストがいまだ空席のままとなっている」。パウエルFRB議長が推進する金融政策はデータ重視だ。その基盤が揺らいでいる。MAGAは大丈夫か。
8月1日に発表された7月の米雇用統計では、同時に発表された5月分と6月分の雇用者数が大幅に下方修正された。2カ月分合計で25万8000人が減少したのだ。インフレ警戒感を強めていたFRBのパウエル議長はこの数字を見て、9月に開催されるFOMCで利下げ再開を示唆。金融政策の大転換を図った。トランプ大統領は利下げを渋るパウエル氏に対して、「後手を踏んでいる」との批判にとどまらず「辞任すべきだ」と頻繁に口にしたほど。5、6月分の大幅な下方修正はデータの信頼を傷つけただけでなく、労働統計局長の解任という事態を招いている。それだけではない。パウエル議長の「データ重視の金融政策」の信頼性そのものに疑問符を突きつけた。一般的印象に過ぎないが、米国の統計データの信頼性は世界でもトップクラスだと思っていた。しかし最近の雇用統計はそんな期待感をものの見事に打ち砕いてしまった。
「米労働統計局、上級職の3分の1が空席-局長解任前から課題山積」と題されたBloombergの記事によると、「門知識を持つ職員が減少する中、トランプ氏はBLSを含む連邦機関の諮問委員会を廃止しており、今後どのような方針で米国の『ゴールドスタンダード』とされる経済統計の質を守り、向上させていくのかは不透明だ」と懸念する。データの信頼性という点では、現場でハンドリングしている実働部隊の質と量が問題になる。オバマ政権下でBLS局長を務めたグロッシェン氏は、「BLSは幹部職員の退職だけでなく、トランプ大統領が見習い期間中の職員を解雇したことで、技術的スキルを持つ若手職員の流出も招いている」と指摘する。何やら民主党対共和党の非難合戦のようでもあるが、同氏は「BLSには独自の文化がある。それは模範となるリーダーシップと人材育成に大きく依存している」と主張する。人減らしを重視するトランプ氏のもとで、データの質は向上するのか。これもトランプ氏に課された課題だろう。
