9日付の当欄で「石破総理突然の退陣、自民党再生のチャンス逃す=主犯は小泉農相、従犯が菅副総理」と書いた。昨日ジャーナリストの山口敬之氏のYouTubeを見て、この原稿の一部に修正が必要だと感じた。石破辞任政局を制したのは小泉氏ではなく菅副総裁だった。小泉氏はあくまで脇役を演じたに過ぎない。だが、菅氏が党内で圧倒的な評価を得たことによって、自民党総裁戦はいうまでもなく小泉氏が有利になった。総裁選の結果次第だが個人的んは、それでも「自民党再生のチャンスを逃した」という結論は変わらない。おそらく誰がなっても次期総裁のもとで挙党一致体制が敷かれるだろう。数ある争点を不透化する「あいまい路線」は継続される。日米関係は対米従属、服従、隷属関係が続く。日本経済の再生も、国民生活の改善も遠のくだろう。現実は何も変わらない気がする。

山口氏は菅副総理と親しい関係にあるそうで、菅氏を通して5日、6日、7日の3日間に起こった石破総理の動静を細かにフォローしている。5日、総理は身内ともうべき赤沢経済再生担当相、岩谷外相、村上総務相の3氏を官邸に呼び、8日に控えた総裁選前倒し投票の行方などについて意見交換した。この時点での結論は「解散」。3氏を通じてこの情報は瞬く間に党内に浸透した。これを伝え知った菅氏が行動を起こす。6日に小泉農相を引き連れて官邸を訪問、石破総理に「党の分裂は許さない」(筆者の推測)と厳しい口調で伝えた。この後総理がどう答えたかは不明だが、菅副総裁は30分ほどして官邸を後にしている。その後小泉氏が一人残り、総理と二人だけで2時間近く話し合っている。何を話したか、これも分からない。「政治家同士の会話は外部にはペラペラ喋らない」(記者会見の総理発言)。そりゃそうだ。

山口氏によると菅氏は「結論が出るといつもサッサと引き上げる」そうだ。石破総理はこの30分で辞任を決意したのだろう。このあとは周知の通り。7日午後6時から総理の緊急記者会見が行われた。辞任情報はこの日の午後あたりから主要メディアが流し始める。だが、この情報を一番先に世の中に伝えたのは山口氏だ。7日の午前中に自身のメルマガで辞任の一報を伝えた。それはともかくとして、この政局を制したのは明らかに菅氏だ。病身に鞭打ちながら権力の移ろいを睨んでいたのだろう。タイミングを測ったように総裁選前倒し投票の中止と総理辞任を引き出した。これで態度未定だった過半数の自民党議員はホッとしたはずだ。自民党得意の「臭い物に蓋をする」、要するにあいまい路線だ。老獪な政治家である菅氏の一人勝ちと言っていい。だが、個人的にはそこに自民党の“落とし穴”があると言いたい。