パウエルF R B議長は利下げ決定後の記者会見で、「関税がインフレに及ぼす全体的な影響はまだ分からない」「関税による持続的なインフレへのリスクを管理・評価する必要がある」と述べた。この日の公開市場委員会(FOMC)で政策金利を0.25%引き下げ、労働市場の減速に配慮する姿勢を明確にした。その一方で、上記のようにインフレが引き続き懸念される現在の経済状況も指摘した。利下げを求め辞任説までちらつかせていたトランプ大統領の“脅し”を無視し、データ本位の姿勢を鮮明にした。要するに金融政策に関して「われわれは長期的な視点に立ち、米国民のために最善を尽くし寄与していく。政治的配慮に基づいて決定を下すような状況になるとは思わない」と反トランプを鮮明にした。その一方で米経済の先行きに関して新ためて警戒感を滲ませた。
米国の経済状況は8月、9月発表の雇用統計に現れた通り、労働市場の急速な原則が鮮明になっている。移民政策の厳格化により労働市場の需給関係は逼迫しているはずだが、そんな実体に逆らうかのように企業は新規雇用を控えめにしている。結果的に新規雇用が急減速、米経済の先行きに暗い影を落としている。労働市場が減速すれば賃金の上昇が止まりインフレも減速するはずだが、肝心のインフは高止まりしたまま。パウエル議長は相変わらず「関税による物価上昇は今年および来年も続くと」予想している。要するに今回のFOMCによる利下げ決定は労働市場減速への配慮を示したもので、利下げの本格的な再開に踏み切ったものではないというわけだ。トランプ・パウエル論争はこの先も続くことになる。
今回の記者会見から米経済の先行きは読み取れたのか。残念ながら明確なシグナルは読み取れなかった。パウエル氏は「経済はさほど悪い状況ではない」「経済活動が持ちこたえていることは喜ばしく、消費も持ちこたえている」「長期的なインフレ期待は良好だ」「銀行、家計は良好な状態」と足元の経済情勢に自信を示している。問題はトランプ関税の影響がこの先顕在化するかどうかだ。現在までのところその影響は軽微にとどまっている。企業が価格への転嫁を控えていることが大きな要因だろう。米経済の減速がスピードアップした時、それでも価格転嫁は回避されるのか。企業の基礎的な体力が試される展開になるだろう。インフレの減速は危機的な国際情勢の緊張緩和次第か。いずれにしても米国と世界の経済情勢は引き続き「不透明」の一言に尽きる。
