トランプ大統領が米主要テレビ局の免許剥奪を口にした。国賓として英国を訪問していた同大統領、米国へ帰る大統領専用機エアフォースワンの中で記者団の取材中に飛び出した発言だ。Bloombergによるとトランプ氏は「米国のテレビネットワークが自身(トランプ氏)に対して過度に批判的であれば、放送免許に関して精査を受けるべきだ」と述べたという。「免許を与えられている立場でそんなことは許されない。彼らは民主党の手先だ。免許を取り上げるべきだと思う」とも語った。第1期の就任時からトランプ氏は、主要目メディアに対する敵意をむき出しにしてきた。その典型が「フェイク」という言葉だ。大統領に批判的な記事に対してはいつも、この言葉を使って反撃してきた。その大統領の堪忍袋の緒がとうとう切れたということだろう。

きっかけはチャーリー・カーク氏の暗殺事件だ。Bloombergの記事によるとトランプ氏は、ABCテレビがカーク氏の殺害事件に関連して不適切な発言のあったジミー・キンメル氏の深夜のトークショーを無期限で打ち切りにしたことを取り上げ、「これこそが放送免許の観点でも議論されるべき問題だ」と強調した。キンメル氏の発言は以下のようなものだ。「我々は新たな低みに達しました。MAGA集団は、チャーリー・カークを殺した若者を、必死に自分たちの仲間ではないものとして描こうとし、できる限りのことをして政治的な点数を稼ごうとしました」(YAHOOニュース)。銃撃犯のタイラー・ロビンソンはトランスジェンダーの女性と付き合っていた。だからLGBTを批判するカーク氏を殺害したとされる。とすればキンメル氏の発言は常軌を逸していると言わざるを得ない。

トランプ氏は今週、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)に対して150億ドルの名誉毀損(きそん)訴訟を起こしている。同氏の不満はテレビ局だけではない。主要メディア全体に及んでいる。メディアとしては反トランプの姿勢を貫いているBloombergは、同氏の発言が「米国憲法で保障される言論・報道の自由との決別示すコメントだ」と批判する。メディアの特技は、何かあると「言論・報道の自由」を口にすることだ。テレビ局は何をやっても許されるのか。この業界は政府から電波の割り当てを受け、放送免許を付与された認可業種だ。自由の裏には前提条件がある。この条件に違反すれば免許剥奪もある。日本の放送業界はどうか。一言で言えば政府・与党・官僚ベッタリ。トランプ氏のように、放送免許の剥奪を口にする政治家は与野党含めて皆無。米局のテレビ局にも問題はあるが、日本は「第4の権力」に本当の権力が寄生している。だからどんな不祥事を起こしてもテレビ局は存続できる。米国も異常だが、日本はもっと異常だ。