▽米テック企業に混乱、渡航自粛も-技術者就労ビザの高額手数料布告で<bloomberg日本語版>2025年9月21日 18:04 JST

Georgia Hall、Maria Paula Mijares Torres

  • 20日に米国に戻り今後の渡航を中止するよう影響を受ける社員に通知
  • 既存のH-1Bビザ保有者や更新には影響しないとホワイトハウスは説明
A workspace inside Building 21 at the Microsoft Campus in Redmond, Washington.
A workspace inside Building 21 at the Microsoft Campus in Redmond, Washington. Photographer: Chona Kasinger/Bloomberg

トランプ米大統領が、高度な知識や技能を持つ外国人専門技術者の就労ビザ「H-1B」の申請に10万ドル(約1480万円)の手数料を課す布告に署名したことで、テック業界を中心に米企業に混乱が広がっている。

  マイクロソフトアルファベットアマゾン・ドット・コムを含むテック大手は、影響を受ける社員に対し、20日に米国に戻り、今後の渡航計画を中止するよう通知した。大統領布告は21日に発効する。

  ホワイトハウスは20日、新たな手数料について、新規のビザにのみ適用され、既存のH-1Bビザ保有者や更新には影響しないとX(旧ツイッター)に投稿。今年の抽選プロセスで当選し、10月1日からビザが有効になる申請者も新たな手数料の支払いは必要ないとした。

  ホワイトハウスは「既存のビザ保有者の出入国に布告は影響しない」と説明したが、それでも適用・施行を巡る不確実性が戸惑いや不安を呼び、企業や移民弁護士は既存のビザ保有者にも注意を促した。

  マイクロソフトは社員向けのガイダンス(指針)を更新し、ホワイトハウスの説明により「重要なライフイベントで渡航中の社員が米国に戻れると保証されるはずだ」としながらも、「今後数日は入国管理の現場で何らかの混乱が起きる」可能性は残ると警告した。

  同社は新たなガイダンスに関するコメントを控えた。

関連記事:H-1Bビザ申請に10万ドル手数料、トランプ氏が制度見直しの大統領令

原題:Trump’s $100,000 H-1B Visa Change Sparks Chaos at Tech Firms (1)New $100,000 H-1B Fee Only for New Applicants, White House Says(抜粋)

▽ビザ申請に1500万円の衝撃、インドIT企業狙い撃ち-対米関係が悪化も<bloomberg日本語版>2025年9月22日 2:18 JST

Sankalp Phartiyal、Anup Roy

MBAの学生と面談するインドのリクルーター
MBAの学生と面談するインドのリクルーター Photographer: Anindito Mukherjee/Bloomberg

専門技術者が米国で就労するための「H-1Bビザ」。この申請に極めて高額の手数料が課されることは、インドのハイテク企業による米国プロジェクトを脅かすリスクがある。モディ首相は「米国第1」政策の新たな弊害に対処せざるを得なくなった。

  トランプ米大統領が19日に署名した布告は、同ビザの申請に10万ドル(約1480万円)の手数料を課すもの。顧客企業にエンジニアを派遣してきたインドのアウトソーシング企業は、利益率の圧迫が避けられなくなる。すでに地政学的な緊張とトランプ政権の関税政策でハイテク支出が切り詰められ、2800億ドル規模のインドITサービスセクターは成長ペースが落ちている。ここにさらなる打撃が加わった。

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  インドと米国の関係はビザ制度の変更前からすでに緊張していた。折しも貿易協議の突破口を探ろうとしていたインド政府交渉団には、ワシントン訪問直前の衝撃となった。世界中で広がる反移民運動に弾みがつくことも予想される。世界最大の人口を抱えるインドへの影響は必至だ。

  テック・マヒンドラの元最高経営責任者(CEO)で、現在は人工知能(AI)企業を経営するチャンダー・プラカシュ・グルナーニ氏は「地政学的な縄張り争いだ」と話す。「メッセージは明白だ。外国人学生は歓迎されない、外国人労働者は歓迎されない」ということだと述べた。

  H-1Bビザ制度は、インドのアウトソーシング企業や米国のハイテク企業が国外から高スキルの労働者を呼び込むために広く利用している。金融企業やコンサルティング会社もこの制度を利用しており、数万件ものビザが抽選で提供されている。トランプ政権はこの変更を、悪用を排除して正当な申請を強化するための広範な計画の一部と位置付けている。

  H-1Bビザは雇用主が3月までに申請し、4月に抽選が実施される制度で、この6万5000件に加えて、米大学の修士号取得者向けに2万件が用意される。2025年には47万件以上の申請が提出された。ブルームバーグ・ニュースの調査によれば、同じ労働者の当選確率を高めるために複数の登録を行う企業は少なくない。

原題:Trump’s $100,000 Visa Threatens Business Model of India IT Firms(抜粋)

▽「現実とは思えない」、専門職ビザ規制に怒りや失望 企業も苦慮<ロイター日本語版>2025年9月21日午後 4:24 GMT+9

By Aditya SoniEcho Wang

「現実とは思えない」、専門職ビザ規制に怒りや失望 企業も苦慮

[サンフランシスコ/ニューヨーク 21日 ロイター] – パニック、怒り、失望──。トランプ米政権が外国人労働者抑制の一環として打ち出した、高度な専門技能を持つ人向けの就労ビザ「H-1B」の巨額手数料が大きな波紋を生んでいる。ホワイトハウスが大統領令が署名された翌日に同制度について「軌道修正」したが、ビザ保有者や企業の混乱は続きそうだ。

19日に署名された大統領令では、H-1Bビザの従業員を雇用している企業に年10万ドルの手数料を課すとしていた。ラトニック商務長官は同日、手数料は毎年徴収することになると述べたが、詳細をまだ検討中と説明した。

ハイテク、金融などH-1Bビザ保有者を多く抱える企業は、21日の新規制施行を前に対応に追われた。マイクロソフト(MSFT.O), opens new tab、アマゾン(AMZN.O), opens new tab、グーグルの親会社アルファベット(GOOGL.O), opens new tabは社員向けの緊急メールで同ビザを保有する従業員に米国に留まるよう勧告。ゴールドマン・サックス(GS.N), opens new tabは海外渡航に注意するよう促した。

翌20日、ホワイトハウスのレビット報道官はXへの投稿で、 10万ドルの手数料は、新規の申請を対象とした1回限りの手数料で、既存のビザ、ビザの更新には適用されないと説明した。現在国外にいる同ビザ保持者が米国に再入国する際に10万ドルを請求されることはないと述べた。ホワイトハウスが同日に公表したファクト・シートは、「国益にかなう」場合はケース・バイ・ケースで新規申請でも10万ドルの手数料が免除されることがあるとしている。 もっと見る

<米国への帰国ラッシュ>

サンフランシスコ空港では、新規制が施行したら帰国できなくなることを恐れて休暇を切り上げたインド人が多くみられた。

エミレーツ航空の19日午後5時5分サンフランシスコ発ドバイ行きの便は、勤務先からの指示を受けたインド人乗客数人が「降りたい」と訴えたため、出発が3時間以上遅れたという。

中国の人気交流サイト(SNS)「Rednote」では、H-1Bビザ保有者が中国などの国に到着してわずか数時間後に急いで米国に戻ることになったという話が投稿された。

大統領令は、「H-1B法とその規制を悪用して賃金を人為的に抑制し、米国民に不利な労働市場をもたらしている」と記述している。企業が賃金を抑える手段となっている同ビザを規制すれば米国人技術者により多くの仕事の機会がもたらされるという論理だ。これに対し、テスラ(TSLA.O), opens new tabの最高経営責任者(CEO)で南アフリカ生まれのイーロン・マスク氏は、企業が競争力を維持するために必要な高度技術者を呼び込む制度だと反論している。

「Rednote」のある匿名ユーザーは、H-1Bビザ保有者の生活は「奴隷」のようだと指摘した。

米国在住10年のエヌビディア(NVDA.O), opens new tabのエンジニアは、日本での休暇を切り上げて戻ってきたサンフランシスコ空港で「現実とは思えない。全てが一瞬にして変わってしまう」と語った。