▽米国市況】国債急伸、政府閉鎖より雇用減の衝撃-ドル一時146円台

Rheaa Rao

  • S&P500種続伸、医薬品とハイテクが押し上げ-閉鎖短期終了の観測
  • 年内2回の利下げ観測強まる、金は3900ドルに迫りまた最高値更新

1日の金融市場では米国債相場が急伸。労働市場の下支えを目的とした追加利下げが年内に2回あるとの観測が強まり、利回りはほぼ1カ月ぶりの大幅低下となった。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.71%-2.3-0.48%
米10年債利回り4.10%-5.2-1.26%
米2年債利回り3.53%-7.6-2.10%
  米東部時間16時52分

  政策金利の動向に最も敏感に反応する2年債は、利回りが一時3.54%まで低下。9月5日以来の大幅低下となった。

  政府機関の閉鎖で各種統計の発表が遅れる見通しとなり、ADP民間雇用データの重要性が増している。ADPは集計の基である米労働統計局(BLS)のデータに問題があることを認めたが、雇用者数の大幅減少は労働市場軟化の新たな兆しとなった。

関連記事:米ADP民間雇用者数、予想外の3.2万人減-前月もマイナスに修正 (3)

  ADPデータは米経済が政府閉鎖の長期化に耐える準備が整っていないことも示唆した。

  パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)のエコノミスト、ティファニー・ワイルディング氏は「比較的長い閉鎖になる可能性はある。契約職員や政府職員が2回分の給与を受け取れなくなるような事態になると、影響は加速する」と警告した。「1回分の未払いであれば、恐らく大きな問題にならないが、それ以上続くと個人消費への影響が一段と強く表面化する」と述べた。

  市場では利下げ観測の織り込みが進んだ。FOMCの開催日程と連動する金利スワップ市場は、年内の追加利下げ幅を46ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と織り込んだ。朝方の統計が発表される前は42bpだった。

  米労働省報道官によると、2日の失業保険申請統計は、一部政府機関の閉鎖による影響で公表が見送られる見通し。3日の9月雇用統計についても、政府機関の閉鎖が続けば公表は延期となるとBLSはこれまでに説明している。15日に予定されている9月消費者物価指数(CPI)の発表にも影響が及ぶ恐れがある。次回連邦公開市場委員会(FOMC)は28-29日に開かれる。

関連記事:米失業保険申請件数は公表見送りへ、政府機関の閉鎖で-米労働省

  ウェリントン・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ブリジ・クラナ氏は「市場は状況を把握するために、独立した民間のデータに頼らざるを得なくなるだろう」と話す。「政府が本当に人員削減に着手すれば、それこそ経済には本格的な打撃が及ぶ。従って今回の件は経済に影響を及ぼす潜在性があり、しかもわれわれがこれまでに経験してきた以上のものになるかもしれない」と続けた。

  アメリベット・セキュリティーズの米金利トレーディングストラテジー責任者、グレゴリー・ファラネロ氏は「雇用は明確に弱含んでいる」と指摘。「9月の雇用統計が予定通りに発表されないと見込んで、金融市場は反応している。政府統計の下方修正も合わせ、FRBが再び利下げに動くとの見方が強まり、長期的な金利低下のシナリオを後押しする形となった」と指摘した。

米国株

  米株式相場は続伸。ほぼ7年ぶりとなった米政府閉鎖への反応は限定的だった。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数6711.2022.740.34%
ダウ工業株30種平均46441.1043.210.09%
ナスダック総合指数22755.1695.150.42%

  S&P500種株価指数とナスダック100指数はいずれも4営業日続伸。S&P500種は医薬品株の上昇に押し上げられた。ファイザーとホワイトハウスの合意を受けて、同セクターへの楽観が広がった。テスラやエヌビディアといった大型ハイテク株も指数上昇に寄与した。

  ベレンベルクの米国担当エコノミスト、アタカン・バキスカン氏は「FOMCまでに9月雇用統計が発表されなかったとしても、FRB当局者らは労働市場に関する十分な情報を得て、10月会合では『保険』として0.25ポイントの追加利下げを実施するだろう」と述べた。

  過去の事例を参考に、政府閉鎖は長くは続かず、マクロ経済的な影響も軽微にとどまると考えるエコノミストもいる。

  キャピタル・エコノミクスの北米担当エコノミスト、トーマス・ライアン氏は「今回の閉鎖が従来と異なるのは、非中核業務の連邦職員に対する解雇の脅しだ。これは政治的な虚勢で終わる可能性もあるし、法的な正当性も問われるが、公共セクターの雇用に対する悪影響を長引かせる恐れはある」とリポートで述べた。

  バンス米副大統領はホワイトハウスでの記者会見で、閉鎖は長期化しないとの見方を示し、数日間もしくは数週間に及ぶようなら連邦職員のレイオフを実施すると述べた。共和党は政府閉鎖を終わらせるために民主党に譲歩を迫ろうと、強硬戦術に傾いており、行政管理予算局(OMB)のボート局長は連邦職員を迅速に解雇する計画を進めている。

関連記事:トランプ政権、政府閉鎖利用して職員解雇を計画-近く実施を示唆 (1)

  シティグループの米株トレーディング戦略責任者、スチュアート・カイザー氏は当面、閉鎖による株式への打撃は限定的だとみる。

  「これが本格的に株式市場に打撃を与えるには、しばらく続く必要があるだろう。かなり大規模なレイオフが発生する、あるいは債券市場で何らかの異変が生じれば、株式市場に波及してくるかもしれない」とブルームバーグテレビジョンで述べた。

  個別企業のニュースでは、アマゾン・ドット・コムは物価高で節約志向を強める消費者を取り込むため、大半の商品を5ドル(約740円)以下に設定した新たな自社ブランドを発表した。

  ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は前日、トランプ大統領が表明していた医薬品関税について、3年間の猶予を得たと明らかにした。他の医薬品メーカーの追随が見込まれている。

外為

  ニューヨーク外国為替市場ではドルが下落。民間雇用者数が予想外に大幅減少したことを受けて、年内2回の追加利下げ観測が強まった。ドルは引けにかけて下げ幅を大きく縮小。主要10通貨の中ではカナダ・ドルが軟調だった。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1200.15-0.24-0.02%
ドル/円¥147.11-¥0.80-0.54%
ユーロ/ドル$1.1729-$0.0005-0.04%
  米東部時間16時52分

  ADP統計の発表直後にドル売りが強まり、円は一時対ドルで146円59銭まで上昇した。日本銀行が発表した9月の企業短期経済観測調査(短観)によると、大企業製造業の景況感は2四半期連続で改善した。

  主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は、一時0.3%下げた後、0.1%未満までに下げ幅を詰めた。同指数は4営業日続落。

  ドルは取引後半に持ち直す場面も見られた、米連邦最高裁判所はこの日、クック連邦準備制度理事会(FRB)理事の即時解任を認めるよう求めていたトランプ大統領の要求を退けた。これにより、少なくとも最高裁が来年1月の口頭弁論後に判断を下すまで、クック氏は職にとどまることが可能になる。

  パウエル氏のFRB議長としての任期は来年5月に終了する。その後任にトランプ米大統領が誰を指名するかが、多くを左右する。またホワイトハウスがFRBへの影響力行使で別の手段を追求するかどうかも、注目される。

  ノムラ・インターナショナルの通貨ストラテジスト、宮入祐輔氏は「FRBの独立性が守られたとして、市場がドルにとって前向きだと解釈したようだ」と述べた。

原油

  ニューヨーク原油先物相場は3日続落。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成するOPECプラスが生産量の回復ペースを加速させる可能性が引き続き意識された。米週次統計で在庫増加が示されたことも重しとなった。

  ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は前日までの2日間で計5%余り下げていた。OPECプラスは3カ月にわたって供給を日量約50万バレル引き上げる案について5日の会合で協議する見通しだと、加盟国の代表が明らかにしている。一方、OPECはその規模で増産する計画はないと否定した。

  米エネルギー情報局(EIA)の週次統計によると、米国の原油在庫は先週179万バレル増加。ガソリンと留出油の在庫も増えた。

  米国のガソリン消費は6カ月ぶりの低水準に落ち込み、足元の需要減退への懸念が強まった。

Crude Stockpiles Gain | US crude stockpiles rose by the most in three weeks

  マッコーリー・グループは、原油価格が向こう数四半期、1バレル=50ドル台のレンジに下落するとの見通しを示した。生産拡大に伴う「深刻な過剰供給」を理由に、従来予想を引き下げた。

  マーカス・ガーベイ氏ら同社アナリストは四半期見通しで、ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)について、来年は平均で1バレル=57ドル前後になると予想した。従来予想は約60ドルだった。 

関連記事:「深刻な過剰供給」、原油価格は50ドル台に下落へ-マッコーリー

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物11月限は、前日比59セント(1%)安の1バレル=61.78ドルで終了。

  ロンドンICEの北海ブレント12月限は65.35ドルで引けた。

  金スポット相場はまたも最高値を更新し、一時1オンス=3900ドルに迫った。重要な経済指標の公表遅延など、米政府機関の閉鎖を巡る混乱が懸念される中で、金が買われた。

  スポット価格は5営業日続伸し、一時3895.38ドルを付けた。

  また連邦政府機関の業務停止で、ドルに一段の下押し圧力がかかる可能性がある。 

  スポット価格はニューヨーク時間午後3時19分現在、前日比6.24ドル(0.2%)高の1オンス=3865.20ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は24.30ドル(0.6%)高の3897.50ドルで引けた。

原題:Treasury Yields Fall as Weak Payrolls Fuel Bets on Fed Rate Cuts(抜粋)

原題:Stocks Rise for Fourth Day; Treasuries Rally: Markets Wrap(抜粋)

原題:Dollar Dips as ADP Employment Shrinks Unexpectedly: Inside G-10(抜粋)

原題:Oil Extends Slide With Concerns Over OPEC+ Output and US Demand(抜粋)

原題:Gold Surges to Record as US Government Shutdown Boosts Havens(抜粋)