自民党の新総裁に高市早苗氏が選出された。事前の予想をくつかがえるサプライズだった。決め手は麻生太郎氏の選挙戦術。決選投票では「党員票が多い方を推す」の一言が効いた。さすがは長老だ。言葉遣いが巧みである。「決選投票は高市でいく」と言ったら多くの反発者が出ただろう。それを承知の上で「民意に付く」と言った。昨年の総選挙に続き、都議会議員選挙、参院選の大敗をわきまえている。それに引き換え菅、岸田、石破の各氏やその他の小泉支持派は多くの戦術ミスを犯した。加えて小泉支持の岸田氏の対応も奇妙だった。最後の最後まで「沈黙」を押し通した。これは日和見なのか、楽観なのか。小泉陣営と同じく致命的な敗北を喫した主要メディアも“マスゴミ”の実態をされけ出した。ジ・エンド。そして問題はこの先だ。選挙戦術を制した麻生氏と「鉄の女」を自称する高市氏は、国家戦略を共有できるのか。一抹の不安が付きまとう。
まず注目すべきは党の役員人事だ。主要メディアによると要の幹事長には麻生派の番頭役である義弟の鈴木俊一氏が有力視されているようだ。官房長官には旧茂木派の木原稔氏の名前が取り沙汰されている。結果はどうなるかわからないが、総裁選の経緯を見る限り麻生氏が高市新総裁の強力な後ろ盾になることは間違いない。党の役員人事でも同氏の意向が強く働くはずだ。その一方で高市氏は新総裁受託スピーチで、「全党員が一致団結して働こう」と呼びかけている。総裁選に立候補した4候補の処遇も注目される。すでに茂木外相説が一部メディアで封じられている。小泉氏は党で処遇するのか、内閣で処遇するのか、こちらも注目点の一つだ。当の小泉氏は敗北後に、「自分の力不足にしっかり向き合いたい」と述べている。高市氏の意向にかかわらず下野するのも一つの選択肢だ。個人的には小泉氏は将来の有力な総裁候補だとみる。機が熟すまで自分を鍛えたほうがいい。
高市氏の勝因は地方票で圧勝したことに尽きる。半面議員票では149票対145票と拮抗している。麻生氏の「民意につけ」の指示も党内には浸透しなかった。民意に背き続けた岸田・石破派の影響力も残っている。高市氏にとっては大きな壁だ。麻生氏だって権力志向だ。加えて財務大臣経験者でもある。健全財政史上主義の財務省と気脈を通じている。ここに高市氏は敢然と切り込めるのか。同氏は総裁就任が決まった後、「消費税は諦めない」と発言している。裏返せば消費税減税で高市・麻生両氏はまだ一致していない。日本再生に向けた国家戦略は依然として不透明だ。財務省をはじめ小泉氏を支えるはずだったDSは、そのまま高市氏の権力基盤に移行する。麻生・鈴木両氏との関係が悪化すえば、党内基盤は瞬く間に崩壊する。高市氏はそれでも自説を貫けるのか。総裁になった途端自説を放棄、DSにすり寄った石破氏の無惨な姿を繰り返してほしくない。
