▽【米国市況】株下落、銀行不安再燃でリスク回避-国債と円は買い優勢

Rita Nazareth

  • S&P500種は朝方上昇も下げに転じる、信用リスクへの警戒強まる
  • 円は対ドル一時150円21銭まで上昇、米国債は2年債中心に利回り低下

16日の米株式相場は下落。値動きの荒い展開が続いた。地方銀行2行が不正の疑いがある融資の問題を明らかにしたことを受け、経済における信用の質を巡る懸念が強まった。米国債は上昇。円は対ドルで値上がりした。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数6629.07-41.99-0.63%
ダウ工業株30種平均45952.24-301.07-0.65%
ナスダック総合指数22562.54-107.54-0.47%
Stocks Slide After Data As Trump-Putin In Focus
米国株は下落Source: Bloomberg

  S&P500種株価指数は朝方には上昇していた。半導体の受託生産大手、台湾積体電路製造(TSMC)の好調な業績見通しを受けて、人工知能(AI)投資ブームへの期待が高まった。だがその後、同株価指数は下げに転じた。

  ザイオンズ・バンコープの株価は13%急落。完全子会社のカリフォルニア・バンク・アンド・トラストが引き受けた融資で、5000万ドル(約75億円)の貸倒償却を計上したと発表した。ウェスタン・アライアンス・バンコープは11%安。第1順位の担保を提供しなかった借り手への対応を進めていると明らかにした。

関連記事:米地銀株が下落、2行が不正疑惑に絡む融資問題開示-信用懸念強まる

  インタラクティブ・ブローカーズのチーフストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は「現時点では、こうした問題は比較的規模の大きい地銀2行に限定されているようだ」と指摘。「これらの銀行は約2年半前に破綻して混乱を引き起こしたシリコンバレー銀行(SVB)と規模や業態が似ているが、少なくとも今のところ、システミックな問題を示す兆候はない」と述べた。

  ここ最近では、サブプライム(信用力の低い個人向け)自動車ローン会社、トライカラー・ホールディングスの破綻で、JPモルガン・チェースなど大手金融機関の7-9月(第3四半期)業績が打撃を受けている。

  個別銘柄では、地銀株に連動する上場投資信託(ETF)「SPDR S&P地方銀行ETF」が6%超の下落。一方、オラクルは上昇した。AIインフラ事業の利益率見通しを明らかにした。

Regional Banks Sink on Concern About Bad Loans

  トゥルイストのアナリスト、デービッド・スミス氏はザイオンズについて、「これらの融資が通常の業務ではなく、不正によって焦げ付いたのであれば、それは信用の観点で良いことなのか悪いことなのか。いずれにせよ、銀行の商業向け融資には最近『単発的』と見なされる事象が相次いでいる。投資家はまず売り、後で理由を探るという動きに出ている」とリポートで指摘した。

  キーフ・ブリュイエット・アンド・ウッズ(KBW)のアナリスト、クリストファー・マクグラティー氏は、ウェスタン・アライアンスの株価は下げ幅を縮小する場面があったが、「業界で『一時的』な信用案件が増えており、投資家センチメントに影響を与えている。特に信用リスクへの感応度が高いとされる銘柄でその影響が大きい」と話した。

  eToro(イートロ)のブレット・ケンウェル氏は「政府機関の閉鎖で投資家が入手できる経済指標が限られているため、当面は企業決算が相場を方向付ける材料となるだろう」と指摘。「現時点では、決算内容次第で相場が安定に向かう可能性もあれば、再び波乱要因となる可能性もある。強気派は前者を期待している」と語った。

  市場は地政学情勢にも注目している。トランプ米大統領は、ウクライナ戦争の終結を目指し、ロシアのプーチン大統領とハンガリーの首都ブダペストで会談すると表明した。日程は未定としている。トランプ氏はこの日、プーチン氏と約2時間に及ぶ電話会談を実施。ウクライナのゼレンスキー大統領によるホワイトハウス訪問を翌日に控えたタイミングで行われた。

関連記事:トランプ氏、プーチン氏と再び会談へ-ウクライナでの戦争終結探る

国債

  米国債は2年債を中心に上昇。同年債利回りは2022年9月以来の水準に低下した。米地銀株が信用懸念で売られたことを背景に、安全資産とされる国債への買いが強まった。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.58%-4.1-0.89%
米10年債利回り3.97%-5.4-1.33%
米2年債利回り3.42%-7.5-2.15%
  米東部時間16時47分

  2年債利回りは一時9ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下の3.41%。これまでの年初来最低水準は4月7日に付けた3.43%だった。

  短期金融市場では年内残る2回の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、それぞれ0.25ポイントの利下げが実施されるとの観測が完全に織り込まれた。

  ロード・アベットのポートフォリオマネジャー、リア・トラウブ氏は「こうした問題が地銀やノンバンク金融セクターに影響を及ぼしているとの懸念が広がれば、追加利下げへの期待が高まる可能性がある」と述べた。

  コロンビア・スレッドニードル・インベストメントのポートフォリオマネジャー、エド・アルフセイニ氏は「今起きているのは、ファースト・ブランズとトライカラーという2つの個別事象の余波だ」と指摘。「システミックな問題に発展するほどではないが、債券や株式、クレジット市場を動かすには十分な材料だ」と話した。

US 2-Year Yield Falls to Lowest Level Since 2022

外為

  ブルームバーグ・ドル・スポットは下落。安全資産への逃避需要が強まる中、主要10通貨では円やスイス・フランの上げが目立った。円は対ドルで一時0.6%高の1ドル=150円21銭まで買われた。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1207.45-3.40-0.28%
ドル/円¥150.40-¥0.65-0.43%
ユーロ/ドル$1.1689$0.00420.36%
  米東部時間16時47分

  米連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事は、悪化する労働市場を支えるために、0.25ポイントずつ利下げを継続することができるとの認識を示した。一方、マイラン理事は、より大幅な利下げを引き続き主張した。

関連記事:ウォラーFRB理事、慎重な利下げ主張-マイラン氏は大幅利下げ求める

  この日発表された10月のフィラデルフィア連銀製造業景況指数は、予想外に縮小し、6カ月ぶりの水準に沈んだ。10月のニューヨーク連銀サービス業活動指数は、縮小ペースが前月から加速し、過去4年余りで最大のマイナスとなった。

関連記事:NY連銀サービス業活動指数、21年以来の大幅縮小-雇用の急減速を反映

  公式の米小売売上高の発表が延期される中、クレジットカード利用データなど民間指標は個人消費が活発な今夏を経て、9月に勢いがやや鈍化したことを示唆している。エコノミストはクレジットカードの借り入れ状況や既存店売上高といった高頻度の消費データを幅広く分析した結果、過去3カ月間に年率換算で4.1%という力強い伸びを示していた小売活動が一服し、消費者が支出を抑えたと指摘している。

関連記事:米小売売上高は9月に減速、民間データが示唆-政府統計は発表延期

ドル・円の推移

原油

  ニューヨーク原油相場は3日続落し、5カ月ぶり安値。トランプ米大統領はロシアのプーチン大統領と電話会談し、ウクライナでの戦争終結を協議するためにハンガリーで再会すると表明した。これを受けて、近くロシア産原油の流通が拡大するとの見方が広がった。

  ロシアの石油インフラへの圧力が強まり続けている中で、ロシアとウクライナの戦争終結を目指す動きが出てきた。ロシアの石油輸出はウクライナ侵攻後最低の水準に落ち込んでいる。ウクライナのドローン攻撃にさらされ、ロシア製油所は被害が続いている。

  同時に西側諸国はロシアの戦費を賄う石油マネーの流入を阻止しようと、同国エネルギーセクターへの圧力を強めている。英政府は15日、ロシア最大の石油会社に加え、ロシア産燃料の取引を理由に中国のエネルギー2社およびインドの製油会社に制裁を科した。

  インドの製油業者はロシア産原油の購入を停止しないまでも、減少すると明らかにし、世界の供給がひっ迫する可能性が意識され、原油相場は一時、上昇する場面もみられた。これより先、トランプ氏はインドがロシア産原油の購入を停止すると述べていた。

  米中貿易の緊張が高まり、両国での原油消費の行方が懸念され、原油価格は今月、下落傾向にある。長らく予想されていた供給超過の兆候がすでに出現し始めていると、大手商社は指摘した。

  JPモルガン・チェースのアナリストらは16日付のリポートで「10月初めに見られた石油需要の軟調は第2週も続いた。米中両国の港湾では引き続き活動が鈍っている」と指摘。「中国の減速は主に国慶節・中秋節によるものだが、米国は先行需要の一巡と関税率引き上げが影響した」と続けた。

  一方で米政府が発表した統計では、国内石油市場の状態が一様でないことが明らかになった。製油所稼働率はほぼ全ての地域で低下し、全米での数値はこの時期としては2021年以来の低水準だった。主要な原油貯蔵拠点であるオクラホマ州クッシングでは、原油在庫が7月以来の水準に落ち込み、石油製品の在庫も減少した。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物11月限は、前日比81セント(1.4%)安の1バレル=57.46ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント12月限は1.4%下げて61.06ドル。

  ニューヨーク金相場は連日の最高値更新。米金融緩和への期待と米中の緊張激化が金需要を支えた。

  金スポットは8月に始まった上昇基調が続き、オンス当たり4300ドルの節目を上回った。投資家の購買意欲は他の貴金属にも及び、銀は前日に3%余り急伸。ロンドン市場の需給ひっ迫は解消されていない。

  短期金融市場では年内に少なくとも1回の大幅利下げがあるとの見通しが強まっている。連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は今週の講演で、今月の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25ポイントの追加利下げを実施する方向にあると示唆した。

Gold Continues to Climb | Bullion has risen steeply since August
金スポット価格出所:ブルームバーグ

  金相場は米中を含む貿易摩擦の再燃にも支えられた。トランプ米大統領はこの日、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行った。

  金は今年、60%余り上昇。中央銀行による積極的な金買いと、上場投資信託(ETF)への資金流入に加え、地政学リスクと貿易摩擦、財政と債務面での不安拡大、連邦準備制度理事会(FRB)の独立性が脅かされていることを背景に、逃避資産としての需要が急拡大している。

  バンク・オブ・アメリカ(BofA)の金属調査責任者、マイケル・ウィドマー氏は「私の考えは変わらない。ここまでのオンス当たり2000ドル上昇してきた局面で、当社は強気だった。その要因すべてに対してまだ強気だ」とブルームバーグテレビジョンで話した。ただし「9月のETF流入は前年同月から880%増加しており、これは最終的に問題となるかもしれない」と述べ、このペースは持続不可能だからだと説明した。

  金スポット価格はニューヨーク時間午後3時55分現在、前日比102.72ドル(2.4%)高の4310.20ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は103ドル(2.5%)上げて4304.60ドルで引けた。

原題:Wall Street Jolted as Bank Woes Stir Credit Angst: Markets Wrap(抜粋)

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