トランプ大統領がロシアのプーチンとの会談を中止すると発表した一方で、中国の習近平主席とは30日に会談すると表明した。国際政治のシビアな現実を垣間見る思いがした。そんな中でBloombergが今朝伝えた記事に目が止まった。
タイトルは「欧中の半導体会社巡る対立、打撃は近く業界全体に-オランダは釈明」。中国が実質的に支配している自動車部品メーカーの「ネクスペリア」というオランダにある会社を、オランダ経済省が接収したという内容だ。これに反発した中国は報復として同社への輸出を禁止。これによってネクスペリアは経営危機に陥ると同時に、世界中に広がっている自動車メーカーへの部品供給ができなくなる可能性があるという。単なる小さな部品メーカの話と思いきや、この会社自動車メーカーに不可欠なロジック半導体の供給会社。欧州だけでなく日本や米国など、世界中の自動車メーカーが半導体不足に陥る可能性があるとBloombergは指摘している。
ことの発端は米国によるネクスペリアに対する経済制裁。同社の張学政CEOが自身が支配する別の企業と日本円で200億円に上る不審な取引を実施した。これに不安を強めた米国が同社を制裁の対象にすると同時に、張CEOは裁判所によって解任された。これを受けてオランダのカレマンス経済相がネクスペリアを接収し、中国による支配権を無効にした。ネクスペリアの企業価値は同業であるオランダのASMLホールディングスのわずか1%に過ぎない小さな会社だ。だが同社が供給するトランズスターやロジック半導体は自動車メーカにとってなくてはならない部品だという。事情に詳しい関係者によると、「半導体不足は1週間以内に欧州の主要自動車部品メーカーに打撃を与える可能性が高く、その影響は10-20日以内に業界全体に広がる恐れがある」と指摘している。これが事実かどうか素人には判断がつかないが、企業の存在価値というのはどうやら規模の大小には関係ないようだ。
その昔、「インテル入ってる」というCMが一世を風靡した。コンピュータを制御するCPUという小さな部品が、コンピュータ業界を支配している実態を伝えたものだ。そのインテルはいまや米政府の救済を受けるに至っている。ネクスペリアが同じ運命を辿るかどうかわからないが、一つの部品が地政学リスクを巻き起こしているのだ。英ケント大学ビジネススクールのサプライチェーン専門家デズモンド・ドーラン氏は、「教訓は明白だ。レジリエンス(耐性)とは今や、所有構造や国境を越えた依存関係、産業政策を形成する地政学的な力学を理解することを意味する」と論じている。読売新聞は同じ日に高市総理が「国内外のインテリジェンス(情報収集、分析)活動の司令塔となる『国家情報局』を創設する方向で調整に入った」と伝えている。スパイ防止法を含め日本もようやくインテリジェンスの重要性に気付き始めたようだ。
