高市総理とトランプ大統領の首脳会談が終了した。同盟関係強化や軍事力強化、関税と80兆円投資の正式文書調印など、てんこ盛りの首脳会談だった。中でも首脳2人に共通する話題は安倍元総理。思い出を語りアベノミクスに触れ、サナエノミクスによる「JAPAN IS BACK」の大合唱となった。それはそれでいいのだが、一連の会談の中で気になったこと一つある。ドル・円の先行き見通しだ。「責任ある積極財政」を掲げる高市総理の為替観はドル高・円安。これに対してトランプ大統領やベッセント財務長官はドル安・円高。実際の為替相場は高市総理就任直後から、アベノミクスの連想が重なって円安に動いている。華々しい日米首脳会談の裏で静かに交された為替の方向観の違いは、トランプ氏と高市氏の信頼関係にとってちょっとした懸念要因になりそうな気がする。

首脳会談の裏で行われた片山財務相とベンセント財務長官の会談にその兆候を感じた。米財務省の発表によるとベンセント米財務長官は「アベノミクス導入から12年が経過し、状況が大きく変化している」と指摘。財務長官は過度な為替レートの変動を防ぐために健全な金融政策の策定を求めたと、Bloombergは伝えている。片山財務相は会談終了後に金融政策は「直接的な話題にはならなかった」と記者団に説明している。だが米財務省の発表は明らかに円安懸念の表明である。ベッセント氏は続けて「インフレ期待を安定させ、過度な為替レートの変動を防ぐ上で、健全な金融政策の策定とコミュニケーションが重要な役割を担う」と強調している。健全な金融政策といえば多くの人は、「日銀による政策金利の引き上げ」を連想する。

高市総理の一枚看板は強い日本経済の復活。そのための手段が「責任ある積極財政」だ。具体的には純債務の対GDP比率をコントロールすることで、財政規律を守りながら財政出動を増やすことを目指している。ドーマの定理を引用すれば、GDPの成長率が10年国債の利率を上回っていれば、財政の持続可能は維持される。要するに経済を成長させ長期金利を低位に据え置けば、これが実現する。そのためには政策金利を低めに誘導し、円安で経済成長率を高めればいい。これをドル・円に当てはめればドル高・円安だ。サナエ・ドナルド親密関係の裏で意識されている真逆の方向観。この違いは両首脳の関係悪化を招かないか。積極財政は一般的には国債の追加発行→金利上昇→資本の流入→円高となる。アベノミクスは3本の矢の裏で増税という矛盾を犯した。サナエノミクスははこの二の舞にならないか。杞憂であればいいが・・・。