▽【米国市況】国債下落、円売り加速-パウエル議長が12月利下げに慎重

Rita Nazareth

  • 2年債利回り10bp超上げ、10年債4%上回る-S&P500種は失速
  • 円は対ドルで一時0.6%安の1ドル=153円06銭、金スポット4日続落

29日の米金融市場では、国債相場が下落(利回り上昇)。ドルは上昇し、対円では一時153円台となった。S&P500種株価指数はほぼ変わらず。連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、今後の金融政策を巡り内部で見解が分かれている兆候が見られた。

国債直近値前営業日比(bp)変化率
米30年債利回り4.63%8.61.90%
米10年債利回り4.08%10.02.52%
米2年債利回り3.60%10.63.04%
  米東部時間16時48分
Key Speakers At NABE Annual Meeting
パウエルFRB議長Photographer: Hannah Beler/Bloomberg

  FOMCは広く予想されていた通り、2会合連続で利下げを実施した。しかし、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は会合後の記者会見で、12月の追加利下げを当然のこととして想定すべきではないと、市場に警告を発した。

  「今回の会合では12月にどのように対応すべきかを巡って強い意見の相違があった。12月追加利下げは既定路線ではない。そう呼ぶ状況からは程遠い。政策はあらかじめ決められた道筋に沿って進むものではない」とパウエル氏は語った。

関連記事:FOMCが2回連続で利下げ、パウエル議長は3回目「既定路線」を否定

  これを受けて、国債は下げ幅を拡大。米金融政策に敏感な2年債利回りは10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)余り上げて、7月以来の大幅上昇となった。10年債利回りは4%を再び上回った。

  短期金融市場が織り込む12月利下げの確率は約60%に後退。会合前にはほぼ完全に織り込まれていた。

  今回の利下げにより、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジは3.75-4%となった。利下げは賛成10、反対2で決定した。

  政策スタンスの両極に位置する当局者2人が、今回の決定に反対した。マイランFRB理事はより大幅な0.5ポイント利下げを求めて、再び反対票を投じた。一方でカンザスシティー連銀のシュミッド総裁は、金利の据え置きを支持。同総裁は9月会合では、0.25ポイントの利下げに賛成票を投じていた。

Treasury Yields Spike After Powell's Remarks

  ルネサンス・マクロ・リサーチのニール・ダッタ氏は「大幅利下げと据え置きという両陣営から異論が出ている状況を踏まえると、12月会合に向けて方向性を固めるのは難しいだろう」と述べた。

  ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジャック・マッキンタイア氏は「パウエル議長は、FRBの今後の利下げ見通しと市場の予想との間に一定の距離を置こうとしているようだ」と指摘した。

  政府機関閉鎖で経済指標の発表が途絶える中、パウエル氏の発言の重要性が一段と増した格好だ。

  JPモルガン・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は今回のFOMC決定について、「市場が予想していたリスク管理目的の利下げだった」と指摘。

  より大幅な利下げを主張したマイランFRB理事と、利下げに反対したシュミッド・カンザスシティー連銀総裁の反対票は、「労働市場のリスクバランスや中立金利の水準を巡って、FRB内で意見の隔たりがあることを示している」と述べた。

外為

  ブルームバーグ・ドル・スポット指数は上昇。円は対ドルで下げ幅を拡大し、一時0.6%安の1ドル=153円06銭まで売られた。

為替直近値前営業日比変化率
ブルームバーグ・ドル指数1214.013.980.33%
ドル/円¥152.67¥0.560.37%
ユーロ/ドル$1.1600-$0.0051-0.44%
  米東部時間16時48分

  ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)のストラテジスト、エリアス・ハダッド氏は「今回の票の割れは、FRBの緩和見通しがやや慎重になっていることを示している。短期的なドル支援材料となり得る」と述べた。

  JPモルガン・アセット・マネジメントの債券部門グローバル責任者、ボブ・マイケル氏は、FOMC会合で反対票が出たことについて聞かれ、パウエル議長が内部を掌握しきれなくなっている兆候だと指摘。マイラン理事は0.75ポイントの利下げを主張した可能性があったとする一方、シュミッド総裁は突如、据え置き支持派として再浮上したと述べた。

ドル・円の推移

  カナダ・ドルは一時上昇。カナダ銀行(中央銀行)は予想通り利下げを実施したが、追加緩和に対する観測をけん制。タカ派的な利下げと受けとめられた。

関連記事:カナダ中銀、2会合連続利下げ-関税の影響長期化も現金利水準は適切

株式

  S&P500種はFOMC政策発表前までプラス圏で推移していたが、パウエル議長の会見中に失速した。

株式終値前営業日比変化率
S&P500種株価指数6890.59-0.300.00%
ダウ工業株30種平均47632.00-74.37-0.16%
ナスダック総合指数23958.47130.980.55%

  ペッパーストーンのマイケル・ブラウン氏は「私の基本シナリオは引き続き、12月会合での25ベーシスポイント追加利下げだ。FRBの『高温運転』姿勢を踏まえると、来年初期の数回の会合でも同様の利下げが続く公算が大きい」と述べた。

  人工知能(AI)への期待が高まる中、エヌビディアは世界で初めて時価総額が5兆ドルを突破した。トランプ米大統領は中国の習近平国家主席との会談で、エヌビディア製の画像処理半導体(GPU)「ブラックウェル」を巡り協議する見込みだと述べた。同社のジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、一連の新たな提携を発表し、AI市場のバブル懸念を一蹴した。

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  アルファベットが引け後に発表した7-9月(第3四半期)決算では、売上高が市場予想を上回った。人工知能(AI)関連の新興企業がグーグルの支援や計算能力を求める動きが広がり、クラウド部門の業績が伸びた。

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  マイクロソフトは通常取引終了後の時間外取引で下落。7-9月(第1四半期)決算は、注目度の高いクラウドコンピューティング事業「Azure(アジュール)」の伸びが、一部投資家の期待に届かなかった。

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  ジャニー・モンゴメリー・スコットのダン・ワントロブスキ氏は「複数の時間軸で見ても買われ過ぎの状態が続いており、2025年末にかけてボラティリティーが高止まりする可能性が示唆される」と指摘。

  同氏は、S&P500種が年内に7000に達し、中期的には7400を目指すと予想しているものの、市場は依然として「エアポケット(突発的な下落)に脆弱(ぜいじゃく)で、かなり厄介な局面になる可能性もある」と述べた。その上で、「株式にとって好調な月とされる11月が、調整のタイミングになるかもしれない」と続けた。

原油

  ニューヨーク原油相場は4営業日ぶりに上昇。ロシアの主要石油企業に対する欧米の制裁の影響と、米在庫の大幅減少という材料を見ながら、買い優勢となった。

  ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は、パウエルFRB議長の会見中もプラス圏を維持した。

  米エネルギー情報局(EIA)によると、米原油在庫は先週690万バレル減と、9月前半以来の大幅減少となった。ガソリンと留出油の在庫も減少した。ガソリン先物は季節外れに強い需要の兆しを受け、一時2.7%上昇した。

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  エミリー・アシュフォード氏らスタンダードチャータードのアナリストは「市場は現在、追加制裁の中長期的な影響を見極めようとしている。影響の度合いは、供給から実際にどれだけの量の原油が除外されるかにかかっている」とリポートで指摘した。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物12月限は、前日比33セント高の1バレル=60.48ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント12月限は52セント(0.8%)上昇し、64.92ドルとなった。

  金スポット相場は4営業日続落。ニューヨーク時間の朝方は上昇していたが、パウエル議長が12月利下げは既定路線ではないとの見解を示したことを受け、下げに転じた。

  パウエル議長会見を受けたドルと米国債利回りの上昇が、利息を生まない金への重しとなった。

  金スポット相場はニューヨーク時間午後3時45分現在、前日比0.5%安の1オンス=3933.11ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、FOMC決定の発表前に、17.60ドル(0.4%)高の4000.70ドルで引けた。

原題:Wall Street Rattled as Powell Downplays Next Move: Markets Wrap(抜粋)

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