Sidhartha Shukla

  • 3週間前の「暗号資産史上最大の清算イベント」の影響くすぶる
  • ETFからの資金流出や暗号資産保有企業による売却懸念も逆風

4日の取引で暗号資産(仮想通貨)のビットコインが下落し、6月下旬以来の安値水準となった。夏場の上昇分をすべて失った格好だ。

  ビットコインはニューヨーク時間午後に6.5%安の9万9963ドルを付けた。10万ドルを下回るのは6月以来。約1カ月前に付けた過去最高値からは20%超の下落となった。イーサは一時9.6%安となり、アルトコイン(ビットコイン以外の暗号資産の総称)の一部も大きく下げている。

  3週間前の「暗号資産史上最大の清算イベント」でレバレッジ取引の巨額ポジションが一掃された影響がなおくすぶる。投資家はビットコインを含む暗号資産の取引を控える傾向にあり、ビットコイン先物の建玉は急落前の水準を大きく下回ったままだ。調達コストが改善しても市場に戻る投資家は少なく、年初来の上昇率は10%弱と、株式を下回っている。

  分散型金融(DeFi)取引会社エルゴニアの調査ディレクター、クリス・ニューハウス氏は「6月の安値に向けた下落は、10月の大規模清算イベントの心理的影響がいまだ残る市場構造を反映している。これは投資家のトレンドへの向き合い方を根本的に変えた」と指摘した。

ビットコイン、下げが継続

  今回の下落は確信度の低い売りとも言える。暗号資産データ会社コイングラスによると、4日の清算総額(ロング・ショート合計)は10億ドル(約1540億円)と、10月10日に記録した約190億ドルを大きく下回る。

  一方でオプション市場では、一段安に備えるヘッジ取引が拡大。コインベース傘下の暗号資産オプション取引所デリビットによると、11月下旬の期限で行使価格8万ドルのプットに最も需要が集まっている。

  ビットコインの下落はハイテク株急落と歩調を合わせている。投機活動の代理指標とされるビットコインは再び株式市場のセンチメントに連動している。

  さらに暗号資産市場は上場投資信託(ETF)からの資金流出や、デジタル資産保有企業による売却懸念といった逆風にさらされている。

  ニューハウス氏は「長期的な弱気トレンドは明らかだが、10月の大規模な清算の影響でトレーダーは持続的なショートポジションを取りにくくなっており、市場は方向感を欠いた短期のモメンタム取引に支配されている」と分析した。

原題:Bitcoin Falls to Lowest Since June as Risk-Off Mood Hits Crypto(抜粋)

▽暗号資産市場で過去最大の強制清算、トランプ氏の対中追加関税表明で<bloomberg日本語版>2025年10月11日 12:12 JST

David Pan、Muyao Shen、Ryan Weeks

  • 仮想通貨が急落、ビットコインは一時12%強下落―コイングラス
  • 焦点は取引相手のエクスポージャーと幅広い連鎖に移行との見方

ビットコインが最高値を更新してからわずか数日後、暗号資産(仮想通貨)市場で過去最大規模のロスカット(強制清算)が発生した。トランプ米大統領の対中追加関税とソフトウエア輸出規制の発表をきっかけに市場のボラティリティー(変動率)が急拡大した。

  トランプ氏は10日、11月1日から中国に対し100%の追加関税を課すとともに、重要ソフトウエアの対中輸出規制を導入すると発表。これを受け、仮想通貨が急落した。暗号資産データ会社コイングラスによると、この急落が「暗号資産史上最大の清算イベント」を引き起こし、その結果、売りがさらに加速したという。

  10日の前から市場の軟調が続いていたが、トランプ氏の発表をきっかけにビットコインは12%強急落。今週、過去最高値の12万5000ドル強を付けたビットコインは、ニューヨーク時間10日夜には11万3000ドルを割り込んで推移した。

  コイングラスのデータによると、過去24時間で190億ドル(約2兆9000億円)超相当の建玉が消滅し、160万人強のトレーダーがロスカットに追い込まれた。このうち70億ドル超のポジションが10日のわずか1時間内に清算されたという。

  コイングラスはX(旧ツイッター)への投稿で、清算注文がリアルタイムで報告されない交換業者もあるため、ロスカットの規模はさらに大きかった可能性があると説明した。

  マルチコイン・キャピタルの主任トレーダー、ブライアン・ストラガッツ氏は「焦点は現在、カウンターパーティーのエクスポージャーと、それが市場の幅広い連鎖を引き起こすかどうかに移っている」と指摘。清算総額が300億ドルを超えるとの推計もあると述べた。

  米中間の対立激化は世界の金融市場に衝撃を与え、株式や原油、暗号資産が急落する一方、安全資産とされる米国債と金への資金流入が進んだ。

  ファルコンXのトレーダー、ラヴィ・ドーシ氏は「10日に米中貿易戦争が再び勃発し、市場に不確実性が広がってリスク資産が売り込まれた」と述べた。同社のデリバティブ(金融派生商品)部門ではこの日、下振れリスクヘッジの需要が急増したという。

Bitcoin Extends Drop Amid Trade Tensions
Bloomberg

  機関投資家向けの暗号資産アルゴリズム取引プラットフォーム、トレッド・ファイ(Tread.fi)のデビッド・ジョン最高経営責任者(CEO)は、市場は「ブラックスワン(予測不能の異常事態)」に直面していると指摘。「多くの機関投資家はこれほど大きなボラティリティーを予想しておらず、レバレッジをかけた無期限先物の仕組み上、多くの大口投資家がロスカットに追い込まれた可能性が高い」と説明した。

  クロノス・リサーチのビンセント・リウ最高投資責任者(CIO)は「今回の急落は米中間の関税を巡る懸念が原因だったが、機関投資家の過剰なレバレッジがそれを拡大させた」とし、「暗号資産とマクロ要因の強い関連性が浮き彫りになった。変動は続くだろうが、清算が進んだ市場の反発サインに注目すべきだ」と述べた。

原題:Trump Tariffs Upend Crypto Market, Trigger Record Liquidations(抜粋)